稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。著書に『寂しい生活』『魂の退社』(いずれも東洋経済新報社)など。『もうレシピ本はいらない 人生を救う最強の食卓』(マガジンハウス)も刊行
稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。著書に『寂しい生活』『魂の退社』(いずれも東洋経済新報社)など。『もうレシピ本はいらない 人生を救う最強の食卓』(マガジンハウス)も刊行
昼は近所の定食屋で「アジ酢定食」をいただく。丁寧な味に感激。こういうお店も少なくなりました(写真:本人提供)
昼は近所の定食屋で「アジ酢定食」をいただく。丁寧な味に感激。こういうお店も少なくなりました(写真:本人提供)

 元朝日新聞記者でアフロヘア-がトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。

【稲垣さんが食べた定食屋の「アジ酢定食」の写真はこちら】

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 前回、知人の家づくりを手伝ったことをお伝えしましたが、楽しかっただけでなく、ちょいと人生を揺るがすような発見があったのだよ!

 私が手伝ったのは、壁の土台となる竹を編む作業だったのですが、施主の農家さん(家族や友人に手伝ってもらいながら延々と竹を編み続けた)によると、竹の隙間に指を突っ込んで縄を引き出していく作業は、手の細い女性、さらには子供の方が向いているそうです。何しろ、作業にあたって参考にしたというユーチューブの映像に登場したのはなんとオバアサン! もうそれは美しくリズミカルにしゅっしゅと信じられないスピードで編んでおられたそうな。

 で、ふと「そうか!」と思ったのでした。

 そもそも「家を建てる」とはそういうことだったんじゃないか? 子供から老人まで、家族やら近所の人やらが総出で、棟梁の指図のもと「できること」をやる。そうして一軒の家が建っていく。昔のお百姓は簡単な小屋程度なら自分で建てちゃったそうですが、なるほど近所の人や自分の家づくりにしょっちゅう参加していたら、家を建てる基礎的なスキルは自然に身についていくに違いありません。しかもその助け合いの中で、子供から老人まで誰もが「活躍」できる仕事がある。ってことは、家づくりとは居場所づくりであり町づくりでもあるってことじゃないの。

 しかし我らは家を建てるというと当たり前に「お金の話」だと思っているわけです。先日のアエラでも、いつどこにマンションを買うのが「お得」かという特集が組まれていましたが、これもつまるところ金勘定の話にすぎません。で、そのお金を稼ぐためAIに負けない知識やスキルを身につけなきゃいかん大変だ大変だーと騒いでいる私たち。しかしね、そもそも人生とは衣食住が満たされていれば大丈夫なわけで、そこにさらに良き友人がいればもう最高なわけで、そのこととお金って実はほとんど関係ないんじゃないか? ああ我々はあまりにも人生を狭く苦しく捉えているのではないでしょうか。

AERA 2018年11月19日号

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稲垣えみ子

稲垣えみ子

稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行

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