そのほかにも、教育界が抱える今日的な問題がある。

 現役教師の中堅層が薄くなり、若手教師はロールモデルを失い、作文技術をどう教えていいかわからない。保護者も教師もプライバシーに過敏になり、生活のありのままを作文に書くことが難しい。学級通信を発行するのにも管理職の決裁が必要で、作文を載せ、保護者に見てもらうこともままならない。

 その間、日本の教育界を襲ったのは、40~50カ国と地域が参加し15歳の生徒を対象とした国際的な学習到達度調査、「PISAショック」だった。2003年の調査では、科学や数学のリテラシーは1位グループなのに、「読解力」は14位。06年も15位。12年にいったん4位になったものの15年は8位と低迷している。

 太郎良さんは強調する。

「作文も感想文も総合教育です。日頃から文章を読み書く習慣をつけていなければ書けるはずがない。10代から繰り返し書くことで、思考力が鍛えられる。その教育は必須です」

 私の作文教室に通っている小学2年生の咲耶(さくや)さん(8)は言う。

「作文はそんなに好きじゃないけど、作文教室で何回も書いているから学校でも頑張ろうと思う」

 作文も感想文も確かに手間はかかる。けれど書き上げた喜びも大きい。その達成感が、あらゆる学びの力になる。(ノンフィクション作家・神山典士)

AERA 2018年11月19日号より抜粋