幸いなことに、人材派遣会社勤務時代からの失業保険が加算され、8カ月間の失業保険が給付された。ただし、毎月、求職活動をしている証明書の提出が義務付けられている。やむを得ない事情で求職活動ができない場合は、失業保険の延長の手続きが必要──そう知っていた菊地さんは延長の手続きを行い、乳房再建が完了した後、8カ月後から失業保険の給付を受けた。

「おかげで治療に専念でき、乳房再建の完了後、落ち着いて転職活動を始められました」

 その後、就職支援教室の講師の仕事に就いたが、歩合制で収入が不安定であり、1年しか続けられなかった。無給で過ごしていた時期は社会との繋がりが途絶えた気分になり、近所に出かけるのも億劫になった。

「知人に会うと、みんな聞いてくるでしょう? 『最近どう?』『仕事は?』とかって。言葉が心にグサグサと刺さって……。仕事の負荷はなく体は休められても、心は休まらなかったですね」

 今年4月から、学校に行けない小中学生の支援を行う、「教育支援センター(適応指導教室)」で週4日働いている。カウンセラーの資格が生きた。「誰かのために、自分のがん体験を話してみよう」と意欲が湧き、夏には東京で講演する機会を得た。100人の聴衆を前にこう語った。

「動きたくても動けない時期も、人に会いたくない時期もありました。でも今は、人に会うことでパワーをもらえています」
 
(ノンフィクションライター・古川雅子)

週刊朝日  2018年11月19日号より抜粋