●雪若丸 山形県

 つや姫に続くブランド米を目指して山形県が開発したのが、雪若丸だ。ふれこみは「つや姫の弟君」。

 山形県にはやわらかくもっちりとした食感の高級品種のつや姫と、お弁当やおにぎりなど中食・外食に多用されるはえぬきがある。雪若丸は、食味面・価格面でこの2品種とは異なるターゲットを目指しているという。

 県農林水産部県産米ブランド推進課・高子郁子さん(55)は言う。

「ターゲットは若い方々。つや姫クラスの高級米の開発を競っている産地もありますが、私たちはもう少しカジュアルな層を狙いました。つや姫の品質はそのまま、手軽な価格帯に。家庭での米消費量が減り続けている現状、高級品よりも日々の食卓で愛されるお米こそ必要だろうと。また、ワンランク上の業務用米としても期待されていて、おにぎりやお弁当も『雪若丸使用』をうたうことで付加価値になればと思っています」

 食味はトレンドのひとつである「粒立ち」とほどよい粘り気にこだわった。さっぱりした後味で酢飯にも合う。そのままはもちろん、寿司やおにぎりにすると口の中でほろりとほどけるし、カレーのように強い味のおかずもしっかり受け止める。

「弟君という打ち出しのおかげで、つや姫の再評価にもつながっているようです。食べ比べる楽しみもご提供できればと思っています」(高子さん)

 ただ、新品種がみなスターになれるわけではない。米の生産、流通、価格などの動向を分析・発信する米穀データバンクが発行する『米品種大全5』によると、18年産のうるち米は286品種。同書の発行は5年に1度で、そのたび約100品種(もち米・醸造米を含む)が入れ替わるという。

 米穀データバンク代表取締役の佐藤隆志さん(59)は言う。

「新品種が続々と登場する一方で、廃止される品種もある。他都道府県との差別化のため各地が高級米の開発にしのぎを削っているが、ブランド米ばかりが増える状況がこの先どうなるか。コシヒカリのような1強が現れるのか、全体が活気づくのか。それは今後、時間をかけて消費者が答えを出していくことになりますね」

(ライター・浅野裕見子)

AERA 2018年11月19日号より抜粋