この厳しさに音を上げる学生もいる。その場合、無理に引き留めることはしないと安部さんは言う。

「パフォーマンスが見合わない場合、自身が求めるものと環境が合っていないことも。内定期間中ならまだ次を探せます」

 フロムスクラッチに先んじること1年。今年度から一律の初任給を廃止したのがIT企業のサイバーエージェントだ。といっても全社的にではなく、職種別採用をするエンジニア職限定だ。

 初任給は、入社時の「スキル」によって決まる。最低年俸は450万円で、最高年俸は720万円。その差は実に270万円。ただし今年のエンジニア職の新入社員45人に、最高年俸の該当者はいなかったという。制度設計を担当した技術政策室長の長瀬慶重さん(42)は、その狙いをこう話す。

「新卒もすでに働いている現役社員も、同じ基準で評価したい。ここ3年で急激に学生のスキルが高まってきました。新卒だから全員一律というのは実態にそぐわなくなっています」

 同社ではエンジニアのグレードを1から7に分け、年俸を設定。社員は上司と毎月の面談をし、半年に1度グレードを見直す。内定者の年俸の決め方も基本的には同じだ。

 今では内定後に就業型インターンをする学生が多く、あらかじめ学生のスキルを測ることが可能。インターンをしない場合は、エンジニアの情報共有サービスの「ギットハブ」での実績や、研究内容などで判断する。

 今年入社したAbemaTV開発本部エンジニアの國師(こくし)誠也さん(25)は、大学院時代に1年間同社でインターンを経験した。

「入社の決め手は、年俸ではなく自己実現できるかどうか。でも納得のいく評価をしてもらえて素直にうれしい」と話す。

 これまでの新卒一括採用は、総合職として内定を出し、入社後に配属を決める方式が大多数だったが、徐々に新卒でも職種別採用が広がりつつある。職種別であれば、スキルを限定しやすいため、初任給から差をつけることは十分可能だ。

 人材会社「ネオキャリア」グループのユニスタイル代表、中村陽太郎さん(29)は言う。

「経団連のルール撤廃に伴って、採用の仕方も多様化するでしょう。内定者研修を強化したり、初任給に差をつけたりする企業も増えていくと思います」

(編集部・石臥薫子、小野ヒデコ)

AERA 2018年11月19日号より抜粋