だが、今回は最後の4回転-3回転の連続トーループを以前より約10秒後ろにずらし、「演技後半」と見なされる1分20秒過ぎにもってくるプログラムに変えた。ステップとスピンを全て後半に詰め込む構成は壊さないよう、振り付けと編曲を改めて練り直したという。

 本番。冒頭の4回転サルコーで4.30点の出来栄え点(GOE)を引き出す衝撃の滑り出し。後半に組み込んだ4回転-3回転も含め、三つのジャンプをほぼ完璧に降りると、スピンは当然のように全てが最高のレベル4と判定された。

 翌日のフリーで、世界はさらに驚くことになる。

 国際スケート連盟の公認大会で成功者のない史上初の大技「4回転トーループ-3回転半(トリプルアクセル)」を着氷したのだ。

 助走なしで3回転半を跳ぶのは、極めて難しい。ただ、着氷から3回転半へ向かう途中で、足を一度踏み替える必要があるため「連続ジャンプ」にはならない。結果、至難の業の割に基礎点は0.8倍に。それでも、羽生は「僕らしいジャンプ」と言う。

 実は、構成上2回転ジャンプを跳ぶ必要がなくなるため得点増が見込める。「自分のために」というポイントは保ちつつ、したたかに高得点を狙う戦略がにじむ構成だ。フリーも七つのジャンプ要素を全て着氷し、超高難度のプログラムを鮮やかに滑りきった。

 シニアデビュー9年目。数々の勝利を手にしてきた羽生だが、GPシリーズ初戦を制したのは意外なことに、今回が初めてだった。

「GP初戦としてはよかったと思います。(ジャンプを)全部立てたことは大きい」

 ただ、この程度で満足はしない。

 特にフリーは、勝負の4回転トーループ-3回転半で着氷が乱れ、GOEがマイナス評価。他にも二つのジャンプで回転不足の判定を受けた。

「試合っていうのはすごく自分を成長させてくれるんだなと改めて思う。課題も見つかって、心の灯に薪が入れられた状態。しっかりこれからまた練習して良い演技をします」

 GPシリーズ2戦目は11月16日から、ロシア・モスクワで。

「これ以上の演技をするっていうことは、挑戦しがいのあるところ。また楽しみたいなって思います」

 目指す場所はもっと先。得点を求めつつ、自分らしく──。頂点を極めてなお、羽生は攻める。(朝日新聞スポーツ部・吉永岳央)

※AERA 2018年11月19日号より抜粋