人目を避け、自身や妻の友人宅を泊まり歩いているという安田純平さん。「早く家に帰りたいが、家族にも近所の人にも迷惑がかかるので」と目を伏せた/11月7日、東京都内で(撮影/写真部・小山幸佑)
人目を避け、自身や妻の友人宅を泊まり歩いているという安田純平さん。「早く家に帰りたいが、家族にも近所の人にも迷惑がかかるので」と目を伏せた/11月7日、東京都内で(撮影/写真部・小山幸佑)
監禁された部屋の一つ。部屋の端にあるトイレから外の様子がうかがえるため、トイレに近づいていいタイミングが制限されていたという(撮影/写真部・小山幸佑)
監禁された部屋の一つ。部屋の端にあるトイレから外の様子がうかがえるため、トイレに近づいていいタイミングが制限されていたという(撮影/写真部・小山幸佑)

 シリアの武装勢力に3年4カ月の間、拘束されていたジャーナリストの安田純平さん。長期にわたる過酷な生活での支えとなった歌、そして妻への思いを語った。

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 解放に向け、はっきりとした変化が現れたのは9月29日だ。ウイグル人の施設から、その前にいた大規模施設に移動させられた。かつて身動きを禁じられた場所だが、今度は扇風機の使用も認められるなど待遇は比較的よかった。

 そして、拘束から40カ月を迎える10月22日、事態が大きく動く。午後、拘束グループに「日本に帰れるぞ」と言われ、車に乗り込んだ。

「解放されるんだ、と感じました」

 途中、民家で1泊し、翌23日朝に再び車で出発。安田さんは目隠しされていた。

「数時間走ったら止まって、別の車に乗せられました。新しい車のやつらが『もう大丈夫、お前はフリーだ』と英語で話しかけてきた。目隠しはそのままだったのですが、車内にたばこの匂いが漂ったので、あぁ、これはトルコ人なんだなって」

 シリアの武装勢力メンバーは宗教上の理由でたばこを吸わない。安田さんが、解放を実感した最初の瞬間だった。

 安田さんは、シリア国境に近いトルコ南部の入国管理施設近くで目隠しを外された。目に飛び込んできたのは、街を歩く華やいだトルコ女性の姿だった。

「ああ、解放されたんだ」

 宗教上の理由で、男性の捕虜の前に女性の看守や捕虜が姿を見せることはなかった。安田さんは、「女の人を見たのは3年ぶりだよ!」と付き添っていたトルコ人に思わず英語で語りかけた。

 拘束されていた3年4カ月の間、安田さんを支えてくれた歌がある。谷村新司さんの「Far away」(作詞・作曲=伊藤薫)だ。

「うちの連れ(妻の深結=みゅうさん)が好きで、カラオケで歌ってくれと言われていたんです。遠距離恋愛の歌で、日本にいるときは実感できなかったけど、捕まっている間はまさに『Far away』でしたから」

 <こんなに遠く離れていても/夜ごと心は空を駆けていく君への道はFar away/だから言葉を一つくれればそれでいい>

 安田さんは深結さんを思ってこの歌を何度も口ずさみ、自由を奪われたときは頭の中で繰り返したという。

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