缶バッジ(1個50円)を作るため、アルミを型でくり抜くような力仕事は主に男性たちが行っている。この日も100個以上作った(撮影/村田くみ)
缶バッジ(1個50円)を作るため、アルミを型でくり抜くような力仕事は主に男性たちが行っている。この日も100個以上作った(撮影/村田くみ)
バザーなどで販売する石鹸(1個200円)とトートバッグ(500円)に絵付けをする女性(66)。あしたばに通うみんなで店頭に立つ(撮影/村田くみ)
バザーなどで販売する石鹸(1個200円)とトートバッグ(500円)に絵付けをする女性(66)。あしたばに通うみんなで店頭に立つ(撮影/村田くみ)
若年性認知症と診断されたら…(AERA 2018年11月12日号より)
若年性認知症と診断されたら…(AERA 2018年11月12日号より)

 認知症になってしまうと、働くことは難しくなるケースが多い。しかし、働くことはケアのひとつだという考えが広がり始めたことなどを背景に、厚生労働省は今年7月、認知症の人の有償ボランティア参加を後押しする通知を出した。働き盛りの年代を襲う若年認知症の人が活用できる制度がある。働き続けることは認知症の人にとって、大きな意味があるようだ。

【写真】バザーなどで販売する石鹸とトートバッグに絵付けをする女性

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 認知症の人の有償ボランティアの活動は、少しずつ増えてきている。特に65歳未満で発症する「若年性認知症」は、国の推定で約3万8千人いるとされ、働き盛りの大半の人が、「働く」場を奪われているとあって居場所作りが急務だ。

 特別養護老人ホーム「なぎさ和楽苑」(東京都江戸川区)内で、09年秋から始まったデイサービス「フリーサロンあしたば」(略称あしたば)は、現在50~60代の13人が利用している。1日5~6人の利用者に対して2人の職員がつき、母体の社会福祉法人の施設から依頼された牛乳パックの解体、封筒詰めや宛名書き、ラベル貼りやバザーで販売する缶バッジの作成、石鹸、トートバッグの絵付けなど「就労型支援」と、昼食の調理や買い物、レクリエーションなどの「アクティビティ支援」と、活動を組み合わせて過ごしている。

 活動の自由度を保つため、介護保険外のサービスにした。施設利用料は1日あたり1千円。このほかに昼食代がかかる。

「家にいるときはずっとテレビばかり見ています。嫌なことがあってもここに来るとホッとする。与えられたことを受け身でやるよりも楽しいですね」

 にこやかに話すのは、3年前から週1回通う66歳の女性。石鹸とトートバッグに、慣れた手つきで、赤やオレンジなど筆で着色していく。夫は自営業で、女性は経理の仕事をしていたが、つじつまの合わないことが度重なり、仕事から手を引いた。介護保険サービスを利用するため要介護認定を申請すると、要介護1。女性は「お年寄りばかりがいるデイサービスには通いたくない」と嫌がったが、昼間、家の中で一人きりになることを心配した娘(32)が、あしたばを見つけた。

「働く」とはいえ、あしたばでの作業は有償ではなく、グッズなどの売り上げは、わかりやすい形でレクリエーションなどの活動資金に充てられる。なぎさ和楽苑施設長代理の池田めぐみさんが言う。

「『働く』場所を提供できても、有償ボランティアに転換できていないのは、利用する方たちの認知症の進むスピードが、予想よりも速く、定期的に仕事を請け負うことができない事情があります。地域からの仕事の依頼はありますが、煩雑な手作業はかえってストレスになることもあります。どんなことをしてその日を過ごすのかは、当日皆さんで決めます」

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