星野ルネ(ほしの・るね)/1984年、カメルーン生まれ。工務店、飲食店勤務を経験する中で、自分の生い立ちが耳目を集めることを知り、表現活動をめざして25歳で上京。ツイッターで日々新作更新(撮影/写真部・小山幸佑)
星野ルネ(ほしの・るね)/1984年、カメルーン生まれ。工務店、飲食店勤務を経験する中で、自分の生い立ちが耳目を集めることを知り、表現活動をめざして25歳で上京。ツイッターで日々新作更新(撮影/写真部・小山幸佑)

『まんが アフリカ少年が日本で育った結果』は、カメルーンで生まれ、日本で育った星野ルネさんが、その半生をマンガでつづった一冊だ。排外主義やヘイトスピーチのあふれる現代をしなやかに生きながら、キッチリ笑いも取る。今回は星野さんに、同著に込めた思いを聞く。

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 アフリカ・カメルーン生まれ、兵庫県姫路市育ち。4万7千人のフォロワー(10月中旬現在)がいるツイッターで、カメルーンと日本にまたがる生い立ちや日常を描いたマンガの支持が広がり、8月20日、34歳の誕生日に初めての著作が出版された。

「本なら、普段、ツイッターを見ない人も手に取ってくれます。テレビ番組などに手ぶらで出ると、“おもしろ黒人”のワクでしか話せませんが、今後は本を出した人間としても扱ってもらえると思います」

 日本からやってきた研究者の男性と、カメルーンのとある村の村長の娘。2人が出会い、結婚してルネさんに新しい父親ができた(実父は別の人)。4歳で姫路に移り、日本語がまったくわからない頃から描き始めた絵は、長じてマンガ表現となる。そこには、両国を行き来している人だからこそ獲得できた視点が満載だ。アイデンティティーとは?「日本人らしさ」とは?

「日本で生まれたら無条件に日本人らしくなると思っている人が多いですね。でも、『日本で生まれても、0歳からアフリカで育ったら、いま見てる田んぼなどの風景が、美しいと思うかどうかわからないよ』とぼくは言いたい」

 普段はニュースにほとんど触れない、という。多くの時間を読書に費やしている。

「量子力学、人類学、社会学などの専門書を好んで読みます。論理的で、根源的なことが書いてある本が好きです。何か情報を得たとき、ベースになる知識を持っているとさまざまな理解の仕方ができるようになるし、他人の意見を聞いた時に性急な決めつけをしなくなります」

 どうしても紹介したい箇所がある。99ページ。本書はマンガだが、その本の中で最も小さな文字で埋め尽くされている所だ。毎日泣いてばかりいるアフリカの少女のもとに、「未来の私」から手紙が送られてくる。ユーモアとしたたかな批評眼で描かれてきたこの本を読んできて、ここで作者が受けてきた傷と考えてきたことの大きさに打たれる。

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