国谷:科学者たちは、平均気温が2度上昇すると、気候変動は止められなくなると警告しています。すでに1度の上昇が報告された今ですら世界中で深刻な事態が起きている。対応の遅れは非常に危険です。

ポープ:だからこそ今、温暖化を止めないといけません。気温を下げるには、まずは上昇を止めないといけない。ちょうどストーブの火力を下げるように、大気中の炭素を取り除くことで気温上昇に歯止めをかけられます。ストーブのつまみを回して温度を下げないといけない時に、化石燃料を燃やし続け、逆にストーブの温度を上げる方向につまみを回してはならないのです。

国谷:現状のままでは上昇を2度未満に抑える温暖化対策の国際的な枠組み「パリ協定」の目標達成が困難です。

ポープ:パリ協定は、いわば各国政府による頭金のようなもの。協定で約束された以上のことを、都市や企業、コミュニティーはすでに独自に進めています。化石燃料よりも安価で害のない再生可能エネルギーに換えていく。電気自動車の運転費用はガソリン車よりもかかりません。安い電力を利用できる住宅の電気料金は当然下がります。解決策はあちこちにあり、それは環境にとっていいだけではなく、地域経済の活性化、大気汚染によるぜんそくなどの健康問題、公衆衛生の改善に直結します。大きな犠牲を強いられない解決策があちこちにあるのです。そこに気づいていないだけです。ただ、取り組みは十分ではありません。特にスピードを上げないといけません。

国谷:非国家主体の取り組みに楽観的な見解をお持ちですが、国家の取り組みはどうでしょうか。あなたの国のトランプ政権はパリ協定を離脱しました。日本では今も多くの石炭火力発電所建設が計画されています。国家は危機感を共有しているのでしょうか。

ポープ:私の国の政府は全く共有していません。トランプ政権はバックミラーを見ながら車を運転している状態で、恐ろしいことです。ただ、トランプ政権の発足後も米国では石炭火力発電所が次々と閉鎖されています。続々と再生可能エネルギーが採用され、電気自動車の売り上げも上がっています。トランプ政権発足前よりも、米国社会の脱炭素化は加速していると言えます。政権が理解しなくても社会が理解しているからです。

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