大手不動産ディベロッパーで、数多くの免震、制振建物を設計した1級建築士が指摘する。

「まず、作業的に地下ピット型の免震装置は、ボルトを外してダンパーを新品に交換するのは比較的簡単だから、KYBは先にやりたいでしょうね。問題は、超高層の壁中の制振ダンパーの交換。こちらは壁を壊し、天井にも影響が出る。複雑な工事をするのでゼネコンが周到に準備しなくちゃいけません。ゼネコンの判断が重要ですね」

 では、ゼネコンは交換・改修の順番をどうとらえているのか。大手スーパーゼネコンの幹部は述べる。

「常識的には危険度の高いところからでしょうが、これがわからない。ダンパーを一本ずつ外して調べるのは非現実的。マンションの免震ピットに入って検査していたら、それだけで騒ぎになって資産価値が下落します。東京五輪で人手も足らず、大々的に手をつけられません。各社、黙って様子見です。他の会社のダンパーを使って、ハイ、やりますなんて手を挙げてしくじったら大ごと。進行中の新築物件は優先するでしょうが、既存の物件はどこが先になるかわかりませんねぇ」

 巷では公共の建築物が優先され、民間のマンションは後回しとも噂されるが……。

「役所の建物が先とも限りませんよ。工賃は安いですしね。大手ディベロッパーに、うちを先にやってくれと言われたら、断れない。社内の営業間の綱引きになるでしょう」

 国と建築業界は、人の噂も七十五日と、騒動が沈静化するのを待っているようだ。が、はたして思惑どおりにことは進むだろうか。マンション管理組合の「本気度」が試されている。(ノンフィクション作家・山岡淳一郎)

※AERA 2018年11月12日号