お役所の直訳調でわかりにくいが、こういうことだ。

 普天間の滑走路は2700メートルで、辺野古沖の代替施設は1800メートル。普天間から移る輸送機オスプレイなどの「回転翼」には足りるが、返還する飛行場の機能全体を別の場所で確保したい米政府にすれば足りない。普天間なみの「長い滑走路」をどこかの「民間施設」、つまり空港でせめて「緊急時」に使えるようにというわけだ。

 輸送機や戦闘機といった「固定翼」の使用が念頭にある。パイロットにすれば、物資や爆弾を積み込めば2700メートルでも若干不安なのは確かだ。

 だが、「緊急時」とは何か。防衛省は「日本が攻撃された場合」とだけ例示するが、そもそも米軍は日米安全保障条約で、「極東の平和」のためなら日本政府の同意のもとで日本のどこでも活動できる。普天間返還の条件として、あえて「民間施設の緊急時の使用」の確保を明記せずともよかったと言える。

 それでも「民間施設」の条件は05年の日米合意で初めて盛り込まれ、今に至る。合意当時に日本政府中枢で交渉に関わった複数の関係者によると、米政府の強い要望だったという。

「台湾有事ですよ」と経緯に詳しい元防衛省幹部は明かす。

 台湾を中国の攻撃から守るための在日米軍基地からの出動は安保条約の下で想定されてきたが、05年には中国軍の増強傾向が明白だった。日米交渉で米側は、普天間なみの「長い滑走路」を日本政府が米軍のために確保するよう、返還条件への明記にこだわったという。

 当時の交渉での米側の攻勢ぶりは、やはり米軍が「緊急時」に必要だとして、航空自衛隊の新田原(にゅうたばる)基地(宮崎県)と築城(ついき)基地(福岡県)の使用まで条件に書き込まれたことにも表れている。滑走路は新田原が2700メートル、築城も延伸工事で2700メートルになる。

 返還される普天間なみの滑走路がなぜ「民間施設」に加え空自基地2カ所までいるのか。「安保条約で米軍が日本のどこでも使えるのだから構わないだろう、と米側に押し込まれた」と当時の首相官邸筋も振り返る。

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