「シンプルに、自分が投げたかったんです(笑)。蓮には『頑張って頑張って』と言うよりも、けなすというか、厳しい言葉をかけた方が気分が乗って、良いボールを投げ込んでいく。決勝でもずっと言っていました」

 人心掌握術にもたけた人間性。ゆえに、獲得を目指した各球団はこの18歳に、選手としてだけでなく、「幹部候補」としての期待もかけたのだ。

「プロで超一流といわれるぐらいまで、頑張っていきたい」

 そう話す根尾。対戦したいピッチャーは──。

「いや、いてないです」

 今ではすっかり大阪弁も板についてきたようだ。

 一方、この夏の甲子園決勝を大阪桐蔭と争った金足農(秋田)の152キロ右腕・吉田輝星の会見場の重い空気は、大阪桐蔭の会場に置かれたモニター越しでもひしと伝わってきた。

 大学進学を翻意し、プロ志望届を提出した右腕に対し、最初の選択希望選手として手を挙げる球団はなかった。吉田が憮然とした表情で見守る中、根尾のクジを引けなかった北海道日本ハムが、外れ1位で一本釣りに成功した。本人が「行きたいです」と公言し、スポーツ紙などが外れ1位での指名を予想していた巨人などは指名を見送った。

 吉田は「順位が気になって、早く決まってほしかった」と明るく振る舞ったようだが、内心は穏やかではなかっただろう。

 しかし日本ハムは、ダルビッシュ有と大谷翔平を高卒からメジャーで通用する「超一流」へと成長させた球団だ。この屈辱は、プロでの活躍でぶった斬ればいい。(ノンフィクションライター・柳川悠二)

※AERA 2018年11月5日号