ドラフトで1位指名され、仲間らに肩車される大阪桐蔭の根尾昂(左)と金足農の吉田輝星。夏の甲子園決勝で対戦した2人が、プロの舞台で相まみえる日が待ち遠しい (c)朝日新聞社
ドラフトで1位指名され、仲間らに肩車される大阪桐蔭の根尾昂(左)と金足農の吉田輝星。夏の甲子園決勝で対戦した2人が、プロの舞台で相まみえる日が待ち遠しい (c)朝日新聞社

 夏の甲子園で主役を務めた根尾昂と吉田輝星が運命の日を迎えた。4球団競合と、外れ1位。この日は明暗が分かれたが、本当の勝負はプロの舞台だ。

 10月25日のドラフト会議において、投打の二刀流で大阪桐蔭の春夏連覇を支えた根尾昂は4球団競合の末、中日の指名が決まった。岐阜県出身の根尾にとって、いわば地元の球団だ。小学生の頃はドラゴンズジュニアに選ばれ、ユニホームに袖を通した経験もある。

「小さな頃からテレビでやっているのは中日ドラゴンズさんの試合だった。このご縁を大切にして、チームの一員として、勝利に貢献していきたい」

 根尾と、ロッテから1位指名を受けた藤原恭大は仲間に胴上げされ、肩車をされながら無数のフラッシュを浴びた。ここまではよくある光景。だが大阪桐蔭では、背後に吹奏楽部員が並び、2人が甲子園の打席に入るときにアルプス席で奏でられていた応援曲を演奏していた。

 史上初となる2度目の春夏連覇を達成した今年の高校野球の主役にふさわしい粋な演出で、2人に対して黄色い声援が鳴りやまなかった。

 根尾は雪深い飛騨高山に育った。純朴な少年は、高校入学当初は大阪のノリに戸惑いながら、大阪弁を教わることから寮生活をスタートさせた。ストイックにグラウンドや屋内練習場で自身を追い込み、自室でもストレッチを欠かさない根尾は、後輩はもちろん先輩からも尊敬されてきた。長い野球人生においてこの2年半が持つ意味を自覚し、一秒も無駄にしたくないという姿勢が伝わってきていた。

 今年のチームがスタートすると、時には荒っぽい言葉で猛烈なリーダーシップを発揮した主将の中川卓也に対し、副主将の根尾はフォロー役に回り、部内の空気をコントロールするような役割を担っていた。

 夏の甲子園初戦の作新学院戦。その日先発マウンドに上がった柿木蓮は9回、勝利を目前にしてもたついていた。

 遊撃を守っていた根尾は柿木に近寄り、自分を指さして、

「俺が投げよっか?」

 と、口にした。励ますでもなく、檄を飛ばすでもなく。普段の根尾からは想像もつかない言葉だった。のちに、根尾はこう振り返った。

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