無料塾を開催する慈光院(東京都墨田区)。「子どもたちがお寺にくることで、お寺に活気が出て私たちも元気をもらいます」と、僧侶の諸岡慶美(よしみ)さん(38)(撮影/小山幸佑)
無料塾を開催する慈光院(東京都墨田区)。「子どもたちがお寺にくることで、お寺に活気が出て私たちも元気をもらいます」と、僧侶の諸岡慶美(よしみ)さん(38)(撮影/小山幸佑)
こども食堂を開く、古刹の覚證寺(東京都調布市)。「孤立した親子や子どもたちが大勢でご飯を食べられ、自由に遊べる場所にしたい」(細川真彦住職)(撮影/小山幸佑)
こども食堂を開く、古刹の覚證寺(東京都調布市)。「孤立した親子や子どもたちが大勢でご飯を食べられ、自由に遊べる場所にしたい」(細川真彦住職)(撮影/小山幸佑)

 あなたにとってお寺とは。観光地、葬式の会場。それから? このままでは人々の意識からも、社会からもお寺が消えてしまいかねない。そんな危機感を持つ僧侶たちが、社会との関わりを模索している。

【写真】こども食堂を開く、古刹の覚證寺

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 下町情緒が残る東京都墨田区の慈光院(じこういん)。9月のある平日の午後、1階の礼拝堂(らいはいどう)に学校帰りの子どもたちが次々と集まった。築地本願寺(東京都中央区)の分院である同院が7月から始めた無料塾の「お寺の学び舎(や)」は、いわば現代版の「寺子屋」だ。

 めいめいノートパソコンが置かれたテーブルにつくと、ヘッドフォンをつけて勉強を始めた。使っているのは「すらら」と呼ばれるクラウド型学習システム。各自の進度に合わせて学習に取り組める。

「私たちが子どもを見守ります」

 と同院の僧侶、三谷智顕(ちけん)(41)は目を細める。

 同院は関東大震災で犠牲になった人たちを追悼するため1928年に建てられた。そんな由緒ある寺が「無料塾」を始めた理由を、三谷はこう説明する。

「昔は地域のコミュニティーの中心にお寺がありました。お寺本来のあるべき姿を見据えたとき、私たちに今、何ができるだろうかと考えました」

 たどり着いたのが、教育だった。かつて寺は、寺子屋に象徴されるように地域の教育・文化の拠点でもあった。三谷は塾に入るための要件を設けず、門徒でなくても構わないことにした。誰もが気軽に安心して来られる居場所にするためだ。

 小学3~6年生を対象に週3回。「授業」はおやつの時間をはさんで約2時間。定員は30人だが、口コミなどで広がりすでに20人超が通っている。子どもたちはおやつの時間には「いただきます」「ごちそうさま」などの礼儀作法なども教わる。保護者からは、感謝の心も身につけることができると喜ばれるという。

 小学4年の娘を通わせる、倉田寿子(ひさこ)さん(39)は笑顔で話す。

「地元だし、お寺なので安心できます。何といっても子どもが4人いるので、授業料が無料なのは本当にありがたいです」

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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