では、「若ハゲ」はどうか。“途中から襲われる”というのが厄介だ。例えば「小さい+α」というケース。「小さい」だけでも手いっぱいだったのに新たな「個性」がそこにプラスされたとしたら。そこでカツラをドーピングしたら短期的にクリアしても長期的には大事なものを失う気がする。知り合いは、葛藤の最中に普通に「老い」の領域に入り、悩みが有耶無耶(うやむや)になってしまったとのこと。ハゲは老いに隠れやすい。コンプレックス的には「“ハゲる”は若いに限る」のかもしれない。

 コンプレックスは生きてる上で避けられない菌みたいなものだ。その発酵は段階的で、ヨーグルトと、ブルーチーズでは全く違う。処理と時間がそれを育む。時間がかかってもきちんと向き合うことで「ネタ」や「キャラ」に昇華する。

 そう考えると、みんなコンプレックスという財産をただただ放置していまいか。勿体無い。

 私みたいにコンプレックスがない人間は本当に羨ましいと思う。

※AERA 2018年10月29日号

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マキタスポーツ

マキタスポーツ

マキタスポーツ/1970年、山梨県生まれ。俳優、著述家、ミュージシャンなど多彩な顔を持つ。子供4人。スポーツ用品店だった実家の屋号を芸名に。著書に『すべてのJ-POPはパクリである。』ほか。映画「苦役列車」でブルーリボン賞新人賞受賞。近刊に『越境芸人』(東京ニュース通信社)。『決定版 一億総ツッコミ時代』(講談社文庫)発売中。

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