「編集をして痛感したのは、社会の根底に、差異のある人間を否定する考えがあるということです。『ろう者』は『聴者』と同じように話をしなければならないし、宗教を信じるなら神の声を聞けと。聞こえない人に聞け、ほとんど拷問です」(監督)

 映画のシナリオは初め、社会への怒りをこめた過激なものだった。だが、理解を得られず映画制作の資金調達に行き詰まった。書き直すうちに冷静になっていく。映像と字幕だけの音のない映画にするつもりだった。「ろう者」の世界には音がないのだから。

「第9稿を書くとき、『聴者であるアナタが監督なのよ』と言われた気がしたのです。私がヴァンサンへの手紙を読む形にして音声を入れ、音楽も使うことにしました」(同)

 映画は、「ろう者」が自分らしく生きようとする姿を描く。「障害者が生まれる」と夫の親に中絶を迫られた女性の苦悩を描く。「ろう者」のデモ行進、社会の無関心の行方は?

 舞台はフランス。けれど、日本の現実、でもある。各地に手話を言語と認める条例ができ、障害者差別を禁ずる法律も施行された。でも、社会は変わったのか。カートン監督は話す。

「『ろう者』の世界を知って下さい。世界は良い方向に進みます。私は楽観しています」

(朝日新聞編集委員・中島隆)

AERA 2018年10月22日号