小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『歳を取るのも悪くない』(養老孟司氏との共著、中公新書ラクレ)、『幸せな結婚』(新潮社)
小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『歳を取るのも悪くない』(養老孟司氏との共著、中公新書ラクレ)、『幸せな結婚』(新潮社)
負の感情のなかでも、とりわけ嫉妬がやっかいだ(写真:gettyimages)
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負の感情のなかでも、とりわけ嫉妬がやっかいだ(写真:gettyimages)

 タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。

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 今号は負の感情の扱い方がテーマ。私はかなりうじうじしやすい面があるので、人生はネガティブな自分との二人三脚です。

 負の感情にも色々あるけど、中でもつらいのは嫉妬とか、敗北感とかですかねえ。まあでも、負けを認めてしまうと案外楽になるもんです。

 20年以上前、テレビ局の若手アナウンサーだった頃の私は人気者にならなくちゃいけないと焦って、同期や後輩に随分嫉妬したものでした。で、またその相手というのが別段性格が悪いわけでもないんですよね。当人はごく自然体で、人気が出ちゃう。それが余計に眩しくて、なぜ神様はこうも不公平なのかと、会社帰りにバーボンを買って一人でベランダで飲んだりしてました。無理してメンソールのたばこをふかしてみたり。

 そんな拗ねた気持ちでテレビをつければたいてい同期や後輩が映っており、フレッシュなアシスタントとしてそれは様になっているではありませんか。

 幸いなことに私には客観的に人の適性を判断する目があったので、画面を見ればどう考えてもこの番組には自分じゃなくて彼女だな!ということがわかってしまいました。

 そこで、こりゃ勝負にならないや、同じ土俵に上がるだけ無駄と早々にまわしを外して、ラジオやら面白中継やら、花形ではないけどやってて楽しい仕事にシフトしました。そうしたら思いがけず大きな賞を頂いたりして、道が拓けたというわけです。

 おかげさまで同期とも仲良しで、世間様が期待するようなアナウンサー同士のドロドロの嫉妬劇にもならずに済んだのは、ひとえにこの「己の限界を認める」ことができたからではないかと思います。

 ですから嫉妬や敗北感をうまく認められない人を見るとうずうずしてしまいます。ダサい自分を認めちまえよ! 楽になろうぜ! 肝心なのは嫉妬しないことじゃなくて、嫉妬する自分をどう扱うかだよ、って。多分そこがこの世と地獄の分かれ道。大いに嫉妬して、早めに諦めるのが健やかに生きるコツかもしれません。

AERA 2018年10月15日号

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小島慶子

小島慶子

小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。共著『足をどかしてくれませんか。』が発売中

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