満員電車に交通渋滞、たまっていく未読メール。高ストレス社会を生き延びる知恵はどこにあるのか(撮影/写真部・東川哲也)
満員電車に交通渋滞、たまっていく未読メール。高ストレス社会を生き延びる知恵はどこにあるのか(撮影/写真部・東川哲也)

 近年、駅や電車内で見かけるようになった、暴力防止のポスター。人々のイライラは電車や駅という匿名的な場所で発散されやすいのかもしれない。駅や電車内での暴力防止への取り組みを取材した。

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「つい、カッとなった。人生、ガラッと変わった。」

 駅構内や電車内で掲出されている暴力行為防止ポスターを見たことはないだろうか。一瞬の「怒り」の感情で暴力に及び、人生を棒に振る──。駅構内や電車内という不特定多数が集まる公共の場で起こる暴力は、加害者になる可能性も被害者に
る可能性もあり、ひとごとではない。

 この鉄道事業者共同のPRキャンペーンの一角を担っている日本民営鉄道協会(民鉄協)の調査では、大手私鉄16社で2017年度に発生した、駅員や乗務員など鉄道係員に対する暴力件数は174件。発生契機は「けんかの仲裁」が5%、「迷惑行為を注意して」が15%、「酩酊者に近づいて」が16%。もっとも多いのは「理由なく突然に」で38%にのぼった。

 民鉄協に取材を申し込んだところ、対応してくれたのは労務部。駅員らにとって業務中に暴力の被害に遭うことは労働災害になるからだ。そもそも労使間で話し合う中で、乗客からの暴力が多いと判明した。02年から取り組みを始め、05年から暴力行為防止の啓発ポスターを制作している。民鉄協常務理事の藤井角也(かくや)さん(63)は言う。

「従業員に対する暴力も、お客さま間での暴力も、すべての暴力について防止を訴えるポスターです。キャンペーンをやるとともに、私たちもお客さまの暴力を誘発しないよう接遇向上の取り組みを行っています」

 労務部の阿部優(すぐる)さん(25)によると、「寝ているお客さまにお声がけするときは前からではなく横から接する」といった従業員教育を各社とも進めているという。

 こういった取り組みや報道などで認知度が上がり、この3年は暴力行為の発生件数は減少傾向にある。とはいえまだまだ多い、という認識だ。総務広報部次長兼広報課長の日高義文さん(62)はこう話す。

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川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

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