「それで実際に選択したのが、5、6年生合わせて10人程度。基本的に子どもは、読書感想文は嫌いですよ」

 だからといって「読書」や「作文」全てが嫌いなわけではない甲斐崎教諭は「子どもは読書感想文を“やらされる”のが嫌いなんです」と指摘する。

「小学校では、週1回『図書の時間』がありますが、これは一人で静かに本を読むことが目的。また、朝読書の狙いは、朝の15分間を静かに過ごして心を落ち着かせること。こうした精神修養的な目的のために読書を強要されるから、子どもがどんどん本嫌いになっていくんです」

 では、どうすれば読書本来の面白さを失わずに、読解力や文章力を高められるのだろう。

 そのヒントは、「おしゃべり」にある。

「例えば、面白い漫画とか映画を見た後って、友達とワイワイ語り合うのが楽しかったりしません? あれと同じですよ」

 甲斐崎教諭がそう語り、実践してきたのが「ブッククラブ」という活動だ。

 ブッククラブでは、200ページほどの一冊の本を、3~4人のグループで読み合う。1回目は、1~50ページ目までを全員で読んだ後、それぞれ思ったことを話し合う。これをワンセットにして、2回目は51~100ページ目と読み進めていき、計4回、大体1カ月で1冊の本を読み終える。これまで重松清の『カレーライス』や、さくらももこの『あのころ』、ルイス・サッカーの『穴 HOLES』などを一緒に読んできた。

 話し合いでは、次の展開を予想するのも、つまらないと批判するのも、すべて自由だ。

 甲斐崎教諭は「同じ部分を読んでも、友達は全然違う感想を言ってくる。それが鏡となって『何で?』という疑問や『自分はこう思う』という意思が、自然に溢(あふ)れてくる」と、その効果を語る。

「読書感想文のように、読んで書いただけでは、自己完結して終わりです。そこから他人と話し合うことで、初めて読解や思考が深まるのだと思います」

 この方法は、家庭での読書感想文対策にも使えるという。

「1日10ページでいいから、子どもと一緒に本を読んで、おしゃべりしてみてください。そして話したことを、一言でいいからメモしておく。それを繰り返せば、夏休みの終わりには原稿用紙が埋まっているはずです。『お母さんはこう言っていたけど、私はこう思う』と、話したことをそのまま書けばいいだけなので簡単ですよ」

 最後に「大人が考えることって不思議なことばかりだ」と書いておけば、なお上出来だ。(ライター・澤田憲)

AERA 2018年10月15日号より抜粋