稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。著書に『寂しい生活』『魂の退社』(いずれも東洋経済新報社)など。『もうレシピ本はいらない 人生を救う最強の食卓』(マガジンハウス)も刊行
稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。著書に『寂しい生活』『魂の退社』(いずれも東洋経済新報社)など。『もうレシピ本はいらない 人生を救う最強の食卓』(マガジンハウス)も刊行
カセットコンロと鍋一つあれば案外なんでも作れますぞ。やってみれば楽しいよ(写真:本人提供)
カセットコンロと鍋一つあれば案外なんでも作れますぞ。やってみれば楽しいよ(写真:本人提供)

 元朝日新聞記者でアフロヘア-がトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。

【稲垣さん愛用の鍋の写真はこちら】

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 拙著『もうレシピ本はいらない』が、このたび料理レシピ本大賞エッセイ賞を頂きました。「レシピ本いらない」と言いつつ、ちゃっかりレシピ本大賞に潜り込む私。関係者の方々の御心の広さに改めて己の小ささを思う……。

 それはさておき、授賞式に出席して感慨深かったのは、受賞作のほとんどが、料理をしない人、したくない人、あるいはしたいけれど忙しくてできない人、つまりは料理が縁遠くなっている人たちに「難しくないよ」「楽しいよ」「やってみようよ」と伝えたいという思いで書かれたものだったということです。大賞に輝いたのは「味噌汁の作り方」をわかりやすく紹介したレシピ本だったのが象徴的でした。つまりはそれほどまでに「料理をしない」人が当たり前の時代なんですね。

 確かに今や、外食だけでなくコンビニ弁当やスーパーの総菜、宅配食に頼れば余裕で食べていける。男女かかわらず、料理なんてしたことない、しなくても困らないと考える人が大勢いても不思議じゃありません。

 なるほどなあと思い、それからハッとしたのでした。

 先日の新聞の投書欄に北海道の方が投稿しておられ、地震の直後にスーパーを回ったがどこも売り切れで「餓死するかと思った」とあり、一瞬、コメやら缶詰やら多少の食料もなかったのかしらと混乱したんですが、いやこれは現代ではありうることです。この方がそうだったかはわかりませんが、私の周囲には、食事といえば外食か弁当なので家にはビールしかないなどという人は珍しくない。そうなると、流通が止まればリアルに飢えるしかありません。

 それはあまりにも無力です。便利社会のリスクは思った以上に高まっているのかもしれない。流通が止まった程度で餓死などしてはいけません。便利に人生を乗っ取られるなんて本末転倒です。例えば週に1度、鍋で米を炊いてみる。キャンプ力のごときサバイバルのための自給力を身につける。それが不測の事態に備える大きな一歩になると思います。

AERA 2018年10月1日号

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稲垣えみ子

稲垣えみ子

稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行

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