大阪大学外国語学部を中退して、ニューヨーク州立大学に入学した柴田さん。若くして故郷を離れた分、故郷のためになにかできることがあれば、という気持ちも強かったという。


「ベルギー・フランダース政府招聘支援事業として、2019年2月に第3回を開催することまで決まっています。他県から来てくださる方も増えたので、古楽と出合う場として、長く続けていきたいです」(柴田さん)

 日本で古楽が広まったのは、なんといってもNHK-FMの存在が大きい。1973年から「バロック音楽の楽しみ」としてスタート。その後、幾度かのリニューアルを経て、現在は「古楽の楽しみ」が月曜日~金曜日の朝6時から放送されている。制作担当者は言う。

「『バロック音楽の楽しみ』の番組制作に携わったのは、戦争で九死に一生を得た人たちでした。古楽には宗教性を帯びたものも多く、戦後、さまざまな傷を抱えていた日本人の心を癒やしてくれたようです。いまは長年のファンと、新しく古楽を聴き始めた方、両方がいらっしゃいますね」

 前出の大塚さんは、「古楽の楽しみ」の案内役として番組に出演するほか、各地でレクチャーコンサートやワークショップを開催、後進の育成とバロック音楽の普及にも力を注いでいる。

 アドバイザーを務める、彩の国さいたま芸術劇場では、無料の演奏会も実施しており、100回目を迎えた6月のコンサートには、約400人のファンが詰めかけた。

「レクチャーコンサートでは、初心者の方も詳しい方も楽しめるように、工夫をしています。古楽の豊かな世界を知っていただけたらと思っています」(ライター・矢内裕子)

AERA 2018年10月1日号