「店長が『バイト料は同じにするから、食器洗いに専念しては』と勧めてくれて助かりました。そのうち、私が出すサインをみんなが覚えてくれて『急いで』とか『レタスはがしといて』など簡単なやりとりができるようになり、充実したバイトの日々を過ごせました」

 前田さんはこのときのバイト代で、念願の原付きバイクを購入したという。

 現在、同センターには男性3人、女性4人の計7人が通っている。うち3人は大学生だ。

 この日は前田さん自らスライドを使って、お金にまつわるやりとりを指導した。預金と貯金の用語の違いを質問したり、エクセルでお小遣い帳を作ったり。ろう者が苦労しがちな漢字対策も兼ねて、収入や支出、残高、銀行、給料などの用語を書き取るドリルなども交えて進めていった。夏休み期間中は大学生を対象に面接試験演習などのセミナーも行った。

 センターでの支援は2年間が基本だが、スキルが身につき準備が整えば早めに社会に送り出し、就職後もジョブコーチと連携して支援を継続する予定だ。前田さんは言う。

「私は少年時代医師を志していましたが、聴覚障害は医師になれない欠格事由でした。その欠格条項も今はありません。現実は厳しい、しかし、夢は持っていてほしい。いろんな選択肢から、夢を見つけてつかみ取ってほしいと思います」

(編集部・大平誠)

AERA 2018年10月1日号より抜粋