大規模災害の直後に日経平均株価が動かないことについて、みずほ証券の上野泰也チーフマーケットエコノミストは、

「個別企業の被害状況や復旧までのプロセスはすぐには判明しないので、投資家は様子見を決め込むしかないのでしょう」

 と推測する。

 今後、大都市圏が被災した場合はどうか。

「これまでと違い、短期的に株価が急落するかもしれません」

 と、eワラント証券投資情報室長の小野田慎さん。同社はデリバティブ(金融派生商品)を専門に取り扱う金融機関だ。

「取引時間中の災害発生で真っ先に売り手になりそうなのが欧州など海外の短期売買ファンドです。彼らは大量の文字情報の中から必要な単語だけを取りだす『テキストマイニング』という技術を活用します。『首都圏』『強い揺れ』などの速報ニュースが流れた直後にコンピューター経由で売りを出すのは技術的に難しくない」(小野田さん)

 IT技術の発達による悪影響である。大都市圏が震災に見舞われれば、状況判断に悩む投資家を横目に、機械が瞬時に出す売りで日経平均は急落するかもしれない。

 今回の北海道地震でトヨタ自動車も被害を受けた。変速機を製造する苫小牧市の工場で操業が止まったため、全国18カ所のトヨタ自動車グループとその系列企業の完成車工場のうち、16カ所が製造の一時休止を余儀なくされた。

「トヨタに限らず、素材や部品の生産を特定の企業や工場に依存しているケースは少なくありません。平時なら集積メリットが大きいのですが、災害となればそれが弱みに一変します」(同)

 たとえば島根県出雲市。東証1部の村田製作所の子会社、出雲村田製作所が宍道湖の近くにある。電子回路の電流や周波数を調整するセラミックコンデンサーの製造・開発拠点としては世界最大だ。「セラミックコンデンサーは携帯電話1台につき300個使用されると言われます。出雲村田製作所の操業が止まれば、携帯電話の生産に少なからず影響を与えます」(同)

 新潟県糸魚川市の信越ポリマー糸魚川工場では、繊細な電子回路を載せる土台となる半導体シリコンウエハーの専用容器を生産しており、親会社の信越化学工業は半導体シリコンウエハーの分野で世界シェア首位。「ここの被災が米国やアジアの半導体工場に無関係とは言い切れません」(同)

 こうした例は数多い。災害の多い日本において、日本の製造業もノーリスクではいられない。(経済ジャーナリスト・相沢清太郎、編集部・中島晶子)

AERA 2018年10月1日号

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中島晶子

中島晶子

ニュース週刊誌「AERA」編集者。アエラ増刊「AERA Money」も担当。投資信託、株、外貨、住宅ローン、保険、税金などマネー関連記事を20年以上編集。NISA、iDeCoは制度開始当初から取材。月刊マネー誌編集部を経て現職

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