同社の幸せ経営の特徴は、「自分らしさを受け入れてもらえる」と思える風土を作っていることだ。ユニークな取り組みの一つが、05年の創業まもない頃から続く月1度の「おむすびの会」。勤務後の午後6時半に近くの公民館に集まり、部署や入社年次に関係なく一緒に座卓を囲み、缶ビールとケータリングのおむすび片手に語り合う。

 毎回数人が7分以内で決意表明を行う。1年に1度のペースでまわってくるが、人生の目標や決意を語るうちに、生い立ちや、いじめられた経験、虐待に遭った過去を明かす人もいる。それを聞いた参加者は一言メッセージを書いたカードを手渡す。事業推進部で働く入社7年目の近藤香菜子さん(29)は、言う。

「初めて参加したときには、ここまで自分をさらけ出すのか、と驚きましたが、成し遂げたいことをみんなの前で言えて、応援してもらえる。本質的に支えられている気持ちになります」

 執行役員の安部孝之さん(37)は、「全従業員が幸せに働けるためには、自分をさらけ出せる心理的安全性を確保する場があることが大切だと思っています」。

 この「心理的安全性」は働き方の最先端をゆくグーグルの思想にも共通する。プライベートな事情も話せる環境は働きやすさを生む。

 近藤さんは、会計の仕組みづくりを1人で担当していた2年前、結婚が決まり、「いつか妊娠したい」という希望を社長の西坂勇人さん(47)に伝えた。すると西坂社長は、すぐにもう1人担当を配置。今年に入り近藤さんは妊娠し、重いつわりで2カ月ほど出社できなかったが、業務を共有できていたおかげで不安を感じずに済んだという。

 前野教授の幸福学によれば、人は自発的に仕事に取り組み、成長できると幸せを感じられる。同社では今年2月から部長や課長などの役職を取り払い「フルフラット」組織に移行。ヒエラルキーによるマネジメントもなくした。安部さんによると、新組織に移行して最初の経営会議で決まったのが「経営会議の廃止」。やりとりはすべて全従業員が見ることのできる社内SNS「Slack」上で行われる。

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