さまざまなコミュニティーとの接続によって、自分を常にアップデートしていくことができれば、配偶者との関係にも好循環が生まれるはずです。アップデートを怠ると、その先に孤独や孤立が待っています。

 結婚して「配偶者依存」になるのも、「結婚の状態依存」も、自分が作り上げた妄想の幸せに依存するのも、自分は独りがいい、という固執したアイデンティティーに縛られるのも、全て「唯一依存」です。

 八百万の神ならぬ八百万の自分が自分の中にいるんだ、でいいんです。そうした自己の多層化が「ソロで生きる力」をつけるということです。自分の中にいろんな自分がいるという自覚があれば、他の人もそうだと考えるようになり、真の多様性の理解にもつながります。

 私が2014年に博報堂の社内で「ソロ活動系男子研究プロジェクト」を立ち上げたころは、「ソロの人生を楽しむ」という価値観を提唱すること自体、炎上ネタになりました。「お前らみたいなのが国を滅ぼすんだ」という批判が大半でした。しかし今は、否定と肯定が半々ぐらいになるまで変化したように感じられます。

 職場などでの独身者に対するハラスメント行為を「ソロハラ」と呼んでいます。私たちの調査でも、40代、50代の未婚男性に対して、「結婚できないあいつには何か問題がある」という解釈をして、管理職に昇進させないケースを複数把握しました。このような偏見は「時代遅れ」と感じる人が多いのが実情でしょう。

 16年にプロ野球日本一に輝いた北海道日本ハムファイターズを率いた栗山英樹監督は50代後半の未婚の独身男性です。栗山監督を引き合いに出すまでもなく、未婚や子どもがいないことと、仕事の成績や部下の育成とは何の関係もありません。

 明治初期の日本人は、今よりも離婚率が高く、世界的にみても多いほうでしたが、江戸時代にさかのぼると離婚率はさらに高く、再婚も活発だったようです。土佐藩には「7回以上離婚することは許さない」という規則があったほどです。

 ところが、高度経済成長期は「皆婚」と呼ばれ、日本の婚姻率は97%に上りました。離婚が急激に減少したのは、明治以降制定された明治民法の影響によるものです。私たちが今、「常識」だと思っている現実は、決して普遍的なものではありません。

(構成/編集部・渡辺豪)

AERA 2018年9月3日号