「円丈師匠は新作落語を画期的に新しくした方です。それまでお年寄り向けのものだった新作にエッジを立てて、刺激的な作品をつくった。ご自分がつくるだけでなく後進の指導にもあたられて『円丈チルドレン』と呼ばれる若手も出てきた。時代を変えた人ですね」(談笑さん)

 1980年代、社会で落語の認知度が下がった時期があった。

「そのときに落語を救ったのが、古典は談志、新作は円丈師匠だと思います」(同)

「炎上まつり」では、「宇宙瞑想曲」の演出で、テーブル掛けを体に巻き付けて登場した太福さん。人気急上昇中の浪曲師だ。「インドにちなんだ落語を、という依頼でつくったそうですが、哲学的でもあり、作品性が高いです。落語という形式へのこだわりさえないようで、円丈師匠は天才です」(太福さん)

 太福さんもまた、新作がつくりたくて入門したという一人だ。

「入門前は現代口語演劇に興味があって、コントユニットを作って台本を書いていました。私は歴史や古典の世界には、まったく興味がない人間なんです。それなのに初めて浪曲を聞いたときに、声の力や響き、振動にどんどん引き込まれました。話芸としての可能性を感じたんです。円丈師匠の作品や古典をやると、自分の幅を広げてもらっている気がします。自分にはない表現を知ることが自分の血肉になっているようです」

 落語ファンのあいだでは、新作をつくる落語家を「新作派」と呼ぶ。そこには古典落語こそが主流で、新作はそうではない、というニュアンスが隠れていないだろうか。

「古典落語」というと、伝統がありそうな言葉だが、登場したのは戦後の高度経済成長期。江戸の面影が失われ、急速に生活習慣が変わる中で生まれた新しい表現なのだ。

 そもそも古典落語の名作でも、最初につくった「誰か」がいるはずだ。たとえば名人・三遊亭圓朝は「怪談牡丹灯籠」や「死神」など数多くの噺を創作したことで知られているから、さしづめ「明治の新作派」と言えるだろう。どんな噺も、生まれたそのときは新作だったのだから。

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