喬太郎:その頃は「落語を聞いている」と職場で勇気をもってカミングアウトする雰囲気だった……って、複数のマスコミ系の人から聞きましたよ。

──どこかで落語についてのイメージができていたんですね。

喬太郎:古典芸能でもあるので、あがめ奉っている人もいて、敷居も高かったのかもしれません。僕自身は、落語は「一人で物語を語る」というシンプルな芸能で十分だと思っています。一本でも自分で作ってみれば、噺を作る大変さがわかるんですよ。

円丈:誰にでも、死んでも書きたいことの二つや三つはあるだろうから、それを新作にすればいいんだけどね。

喬太郎:新作落語をつくるコツはなくて、師匠のおっしゃるように、わきあがってくるものを書くほうがいいんじゃないか。

円丈:新作は労多くして益少なしでね、儲かるわけでもないし。

喬太郎:僕ら新作をつくる噺家は、金儲けをしたいとか、売れたいとか、芸人の方便じゃなく、「新作をつくらないと生きていけない生き物」なんですよ。寡作多作は別にして。

──新作は「選ばれし者」だけが書ける世界なんですね。

喬太郎:選ばれたのかな(笑)。

円丈:選ばれなきゃよかったね(笑)。

(構成/ライター・矢内裕子)

AERA 2018年8月27日号より抜粋