「改葬に踏み切るのを、後ろ暗いイメージで捉える人もいますが、誤りです。お金をかけてまで改葬するのは、それだけ死者のことを想っているから。参拝者や承継者がいないまま、長期間放置される『無縁墓』の増加のほうが深刻です」

 未婚や少子高齢化が進み、単身世帯は増え続けている。跡継ぎがいないため墓を手放すケースが増える一方、見逃せないのは高度成長期以降の都市部への人口集中が、改葬や無縁墓の増加につながっている点だ。都市部で暮らす70代の高齢者層が、この課題に直面している。

「うちは本家ですので、分家の方々なども埋葬されているだろうとは思いましたが、まさかあんなに多いとは。びっくりしました」

 こう振り返るのは、故郷の富山県を離れて60年になる東京都世田谷区の男性(74)だ。

 昨年秋、富山県内にある先祖の墓を閉じる「改葬の儀」に立ち会った際、33体の遺骨が納められていることがわかった。中には、江戸時代末期の文化文政時代(1804~30)の命日が記載された骨壺も。墓前に並ぶ33体の骨壺を前に、男性はしばし先祖に思いをはせた。

 だが、改葬の意思が揺らぐことはなかった。「子孫に負担をかけたくない」との強い思いがあるからだ。

 男性は富山の菩提寺に年間管理料を支払い、5、6年に一度、墓参りをしてきた。都内で暮らす子どもの代になり、墓参りの機会がなくなっても管理料は寺に納め続けなければならない。これは、子や孫にとって負担でしかない、と男性は考えた。

「子どもや孫がお参りできるのは東京近郊の墓じゃないと無理」なのが現実だ。男性は「費用もリーズナブルで、丁寧に永代供養してもらえる埋葬先」となる墓所を新たに東京近郊に確保し、改葬に臨んだ。

「これで祖先も丁寧に供養でき、子どもや孫の代もお参りできるようになりました。お墓は子どもや孫につながっていくことが大事。今回それができてホッとしています」

 菩提寺を持たない人が多い都市部では、身内が死亡すると、葬儀業者を通じてお坊さんを手配してもらうのが通例だ。檀家としてのつながりを断てば寺への寄進を求められることもない。

「葬式のときだけつながる寺」のほうが都合がよい、そんな内実も否定できない。(編集部・渡辺豪)

AERA 2018年8月13-20日合併号より抜粋

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渡辺豪

渡辺豪

ニュース週刊誌『AERA』記者。毎日新聞、沖縄タイムス記者を経てフリー。著書に『「アメとムチ」の構図~普天間移設の内幕~』(第14回平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞)、『波よ鎮まれ~尖閣への視座~』(第13回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞)など。毎日新聞で「沖縄論壇時評」を連載中(2017年~)。沖縄論考サイトOKIRON/オキロンのコア・エディター。沖縄以外のことも幅広く取材・執筆します。

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