「亡くなった後にしのんでもらうより、生きているうちに精いっぱい楽しみたいんです」

 墓といえば、「◯◯家之墓」や「代々之墓」と刻銘されているのが一般的なイメージだが、こうした墓は意外にも歴史が浅いという。第一生命経済研究所の小谷みどり研究員はこうアドバイスする。

「先祖伝来の墓を自分の代で閉じるのが、先祖に申し訳ないと思っている人が多いですが、その先祖の墓は何代続いていますか、と冷静に問うべきです」

 限られたスペースの墓の内部に、代々にわたる骨壺を納めるには火葬が前提となる。小谷研究員によると、火葬率が全国で50%を超えたのは1935(昭和10)年のこと。それ以前は土葬が主流だった。土葬だと、1体に1基の墓が原則のため、墓に刻まれるのは本人の戒名のみだ。小谷研究員は言う。

「江戸や大坂など江戸時代から火葬が実施されていた地域以外では、2、3代前の遺骨が眠る新しい墓であるにもかかわらず、『◯◯家之墓』とか『代々之墓』と刻銘されているため、多くの人が戦前の考え方にワープしてしまう不思議な現象が起きるのです」

 典型的なのが墓の継承の問題だ。墓の承継者は長男の役割と認識している人は多い。この慣習は明治時代の民法の家督相続制度に基づく。だが、そんな決まりは現行の憲法や法律のどこにも書かれていない。都立霊園の規則を引けば、6親等内の血族、配偶者、3親等内の姻族であれば継承できる、とある。

「にもかかわらず、次男や3男は自力で墓を確保しなければいけないと思い込んでいる人が多い。これこそが『明治民法の呪縛』です。長男家だから先祖の墓を背負わなければならないというのも思い込みにすぎません。その先祖もせいぜい3代。3代も経過すれば社会は変化し、価値観も変わるのは当然と割り切る必要があります」(小谷研究員)

 墓の「永代使用権」に関しても誤解されがちだ。永代とは「永久」ではなく、「代のある限り」という意味だ。つまり、年間管理料を払っている限りは無縁になりませんよ、という契約の定義にすぎない。100年後も使用権が存続する人もいれば、承継者がいないシングルの人は自分が死んだら終わり。人によって違うのだ。

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