写真=撮影・今祥雄
写真=撮影・今祥雄
全国の改葬件数の推移(AERA 2018年8月13-20日合併号より)
全国の改葬件数の推移(AERA 2018年8月13-20日合併号より)

 家族のつながりの象徴である「墓」が、重荷になりつつある。都心や地方を問わず、今ある墓を別の場所に移す「改葬」を希望する人が増えているという。その背景には、ライフスタイルや考え方の変化などがあるようだ。

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 秋晴れの陽光が射す中、読経が始まると、参列者からすすり泣く声が漏れた。

「夫の2度目のお葬式みたいな感じでした」

 神奈川県在住の女性(57)は、昨年11月に営んだ改葬の様子をしみじみ語った。

 白い風呂敷に包まれ、墓前に並べられた計7体の骨壺の中には、17年前に42歳で亡くなった夫の遺骨もまじる。顔も知らない夫の先祖の遺骨には特に感慨は湧かなかったが、夫への追慕は膨らんだ。亡くなった後の17年間に思いを巡らせると、涙があふれた。同時に、女性は安堵感もこみ上げたという。

「申し訳ないけど、ホッとしました。これで私の嫁としての責任と義務が終わるな、と。自分の代で無縁仏にしたら申し訳ないという思いが強かったので、少なくとも無縁仏にしないで済んだことに安堵しました」

 一人息子は難病を患い、跡継ぎを望めない。鎌倉時代から続く夫の家系が継いできた墓が無縁仏になってしまう可能性があったため、悩んだ末に女性は改葬を決意した。

 7体の遺骨はすべて静岡県内の寺で永代供養した。女性も同じ寺に永代供養を申し込んだ。

「動けるうちに全部やっておきたかった」。3年前にがんを患ったことも念頭にある。

 女性が申し込んだのは、一般社団法人「おもてなしの会」(東京都豊島区)が窓口となって運営する「1万円の納骨堂」(事務手数料として別途5400円が必要)だ。郵送の遺骨も受け付けている。遺骨は静岡県内の寺の納骨堂に納められ、13年後に合葬墓に移される。この間、管理料などは一切不要だ。

「いまの若い人たちは、私たちの時代のような収入は見込めませんから」

 女性には、息子や親族に負担をかけたくない、との思いが強い。血縁や婚姻関係によらない多くの人の遺骨を一緒に葬る合葬墓にも抵抗はない。女性はさばさばと言う。

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渡辺豪

渡辺豪

ニュース週刊誌『AERA』記者。毎日新聞、沖縄タイムス記者を経てフリー。著書に『「アメとムチ」の構図~普天間移設の内幕~』(第14回平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞)、『波よ鎮まれ~尖閣への視座~』(第13回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞)など。毎日新聞で「沖縄論壇時評」を連載中(2017年~)。沖縄論考サイトOKIRON/オキロンのコア・エディター。沖縄以外のことも幅広く取材・執筆します。

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