アベノミクス「第1の矢」として、異次元緩和が華々しくスタートしたのは2013年4月。目先の景気を優先する政権の意に沿って、黒田日銀は物価上昇率2%の目標を2年で実現すると約束し、巨額の緩和マネーを市場につぎ込んできた。

 当初は円安・株高に弾みがつき、不動産などの資産価格が上昇、企業業績も上向いた。しかし、賃金が増えて消費も伸びる「好循環」は呼び覚ませず、物価は思いどおりに上がらない。資金供給量を増加させ、中央銀行としては異例の“株買い”も漸次拡大、マイナス金利にも手をつけたが、物価上昇率は変わらず、むしろ緩和の「副作用」が膨らむのを加速させた。

 筆頭は苦境にあえぐ地方銀行の経営だ。人口減少に追い打ちをかけるように、長びく超低金利で収益を奪われ、体力も蝕まれる。18年3月期の決算では地銀104行の過半で本業の利益が赤字となり、そのうち40行は3期以上の連続赤字だという。

 市場のゆがみもめだつ。日銀が国債の4割超を買い占め、国債の取引は細り、価格がつかない異例の事態が今年だけで6度起きた。株式市場では日銀が株式の5%以上を実質保有する“大株主”企業が100社を超え、日増しに介入度合いが強まる。

 黒田総裁は緩和の副作用について「今の時点でものすごく大変なことになっているとも思わない」と意に介さない様子で、2%の実現までは強力な緩和を続ける考えを強調した。そう言い続けなければ、デフレ脱却を金看板に大企業と富裕層を潤わせるアベノミクスの根幹が揺らぎかねないという事情もある。

 ただ、日銀が新たに示した見通しでも、2%の達成は21年度以降になる。副作用が膨張して限界を迎えるのとどちらが先か。「チキンレース」のような金融政策の行方が、私たちの生活を左右する金利の趨勢も握る。(朝日新聞記者・藤田知也)

AERA 2018年8月13-20日合併号