それが今、トランプ米政権となり、歴史的な軍事費を予算に組み込み、軍拡に前のめりとなっている。

「オバマさんは核兵器のない世界をつくるのが人の道だと明確に言っているから評価する。トランプは銭金だけ考えおる。くだらんね。トランプが広島に来ることはありえん。(任期も)短いと思うやね」

 今年に入り、「非核化」に向けて急展開を見せている朝鮮半島情勢についても苦言を呈す。

北朝鮮で原爆展をやったことがある。大勢が来たが、アメリカはこういう悪いことをする国ということばかり言って、原爆なんて関係ないようだった。そういう国が口先だけで非核化と言っているだけで、核兵器をなくす方向には行っていない。そんな簡単なもんじゃない」

 口約束だけで「非核化」を強調するような米朝交渉に懸念を示した。

 坪井さんとの会話では国際情勢が頻繁に出てくる。実は、そこに坪井さんの被爆者としての強い思いが隠されていた。

「過去に戻るようなことを私は考えない。過去を乗り越えて、みんな一緒の方向になれる未来にしないといかん。そうすると、人間とか人類とか、そういう方へ頭が行く。世界とのつながりを重視する」

 被爆73年という年月は、「引きずるものではなく、乗り越えるもの」だと強調する。これまで欧米やアジアでも精力的に核廃絶を訴えてきた。各国それぞれの歴史の中で起きた戦争や紛争の被害者や加害者がいる。平和を望む共通の心もあれば、核兵器を肯定する考え方にも直面してきた。「原爆、原爆と押しつけるのではなく、もっと広い視野で、人間として一緒に努力すること。その思いで世界がつながること」が重要だと思った。60歳を過ぎてからのことだという。

「原爆を落とした米国に謝罪は求めない。ただ、一緒に核のない世界をつくろうと言い続ける。若い人を『平和ボケ』と言うのもダメ。それでは子供たちはついてこない。時代の流れもある。被爆者もまずは相手の主張をしっかり聞く。そして、自分の思いを伝える。人間の悪知恵でできた核兵器だから、人間の理性で潰すしかない。それには人間同士、理解しないといけない。そうでないと、みんなで一緒にやろうとならない」

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坪井さんが最近気づいたこととは…