結果、物の見方を180度転換させ、読者一人ひとりが虚心に原民喜と向き合うための導入を担ってくれるような本が生まれた。

「原爆を書いたあの作家にもこんな一面があったのか、と思うより、一括りにできないさまざまな種類の作品を書き、詩もたくさん残し、ひきこもりの愛妻家で後輩思いで……そういう人が、被爆という恐ろしい体験をしてしまったんだ、と考えたほうがいいと思います。そしてせっかく生き延びたけれど、妻に先立たれ、自ら死を選んだ人でもあるんだという事実を静かに受け止めてもらえればと」

(ライター・北條一浩)

AERA 2018年8月6日号