日本では15年にスポーツ庁が発足し、成人の週1回以上のスポーツ実施率を65%(3人に2人)まで引き上げることを政策目標に掲げた。82年(27.9%)以降横ばいだったが、34.8%となった97年から上昇傾向に転じる。数字を押し上げたのはジョギングやウォーキングといった、従来のスポーツよりも広い範囲の身体活動だ。17年は51.5%と初めて5割を上回ったが、吉田さんによると、この年から「ひと駅歩き」や「階段昇降」といった日常生活における運動も対象に含まれたのだという。

 数字を上げるための苦肉の策にも見えるが、実は、ひと駅歩きや階段昇降も運動には変わりない。いわゆるサッカーや野球など、初心者にはハードルの高い従来のスポーツを特別視するのではなく、とにかく体を動かすことがスポーツと認識されるようになれば、自由も楽しみも増え、スポーツが一般的なライフスタイルの一つとして浸透する可能性がある。「スポーツ=身体活動」というイメージの定着が重要で、そのため、「国際会議では必ず『スポーツ&身体活動』と両方併記される」(吉田さん)という。

 スポーツ庁の世論調査では、運動をできない原因は、仕事や家事、子育てなどの「忙しさ」が常に上位を占めてきた。学生までスポーツをやっていた人でも就職と同時に仕事が忙しくなり、スポーツはやるものから見るものに変わってしまう傾向が日本には長くあった。

 吉田さんによると、日本での年代別のスポーツ実施率を棒グラフに落とすと、部活動などの学校体育が盛んな子ども時代と、仕事に余裕が出る中高年時代が比較的高く、20代、30代は低い「U字形」になる。一方欧米では、学校体育が日本ほど浸透していない子ども層や体力が下がる高年齢層よりも、20~30代の若者層が高い逆U字形になるのだという。朝から晩まで働きっぱなしの日本ならではの現象だが、月末金曜のプレミアムフライデー導入や、働き方改革の議論などを通じ、身体活動の促進と直結する政策への転換が日本でも進んでいる。

 企業の意識も変化した。社員の健康を念頭に「運動」に注目する企業が増え、企業運動会が盛んになっている。昼間にジョギングができるような柔軟な労働形態を認める会社もあるし、階段の上り下りやウォーキングなどを社員に推奨するための独自プログラムに力を入れる企業もある。同時に、運動会の企画や健康促進プログラムをアウトソーシングすることで、健康促進事業を専門とするビジネスも生まれている。行政や企業、庶民が「健康」や「運動」を接着剤としてつながる好循環が生まれつつあるのだ。

「スポーツを通じて何かをする」という考え方は、国連の持続可能な開発目標(SDGs)でもうたわれている。

「スポーツや身体活動を通じて健康になる、街づくりをする、コミュニティーをつくるという考え方は、SDGsに則したものだ」と吉田さん。「日本でもスポーツ基本法ができ、スポーツを通じた健康増進や街づくりという考え方が強調されるようになった」という。

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