この木で鼻を括ったような日銀の姿勢に、金融庁以上に激怒しているのは投資信託を主力商品として販売する証券会社だ。「営業現場ではお客様に“投資信託はアベノミクス効果からどんどん伸びています。NISAも税制面で手厚い恩典があります”と、日銀の統計資料などを示して推奨してきた。そのベースデータが誤りだった、しかも30兆円超も少ないのでは、錯誤の勧誘となりかねない」(大手証券幹部)と頭を抱える。

 だが、日銀が6月下旬に認識していたミスが何故、ここにきて判明したのかについて金融界では、二つの意図的なリークがあるのでは、という見方も浮上している。ひとつは日銀による金融政策の変更を糊塗するためのリーク、もうひとつは、秋の自民党総裁選を見据えた反安倍派のリークとの見方だ。

「日銀は7月30、31日の政策決定会合で、量的緩和の修正を議論するとの観測が市場で高まっていた。緩和の『副作用』に配慮して、年6兆円買い上げているETF(上場投資信託)についても購入額の縮小もありうるとささやかれていた。そこに家計の投資信託保有額が減少していた事実をぶつけることで、見直し議論に蓋をした」(メガバンク幹部)という見方だ。

 一方、自民党総裁選を見据えた反安倍派のリークとの見方は、「アベノミクスの中核政策のひとつである『貯蓄から投資へ』が掛け声倒れであったことを示すことで、安倍降ろしに役立つのではないかとの思惑が感じられる」(市場関係者)という。

 いずれにしても、「30億円のミスであれば誤差の範囲内だが、30兆円では根本から政策を見直さなければならない」と金融庁関係者は憤る。日銀の統計は信頼性が高いだけに、ミスは高くつきそうだ。(ジャーナリスト・森岡英樹)

AERA 2018年8月6日号