「きみはいい子」(2015年)で虐待される子どもと、それをしてしまう母親の心理を、両面からすくいあげた呉美保監督(41)は、先ごろ「祝福」のアンナ監督と対談し、興味深い話を聞いた。

「ポーランドでは子育てに対する絶対的な責任を、母親に求める傾向があるそうです。子どもを見捨てたり、虐待したりした母親は父親以上に社会に制裁される。ヨーロッパはもっと男女同権が進んでいるのかと思ったのですが、日本のいわゆる“ワンオペ育児”の状況とおなじだなと」

 母親が一人で抱え込み、閉鎖的な状況に陥ることで、虐待やネグレクトなど、子どもの不幸な状況はより見えにくくなる。その可能性は世界中にあるのだと知った。

「『祝福』のオラの母もまた、自身の母親に愛を注がれなかった人です。子どもが被害者だけれど、子どもにまっすぐな愛情を注いであげられない親、というのもやはり被害者。自分が愛を知っていたら、それを子どもに与えられるはずですから」

 しかし負の連鎖は止められる。肉親の愛を得られなくても、手を差し伸べてくれる誰かは必ずいる。そう信じられる世の中にしたいと呉監督はいう。

「先の痛ましい『目黒5歳女児虐待死亡事件』の後、自分の3歳の子を公園で遊ばせながら、よその子にいままで以上に目を配るようになりました。微々たる力かもしれないけれど、何か自分にもできるかもしれない。映画を通じてそれを発信すると同時に、現実社会でも一人ひとりが『他人を気にする』。そのことが大事では、と思うんです」

 子どもの視線がとらえる社会は、そのまま我々に跳ね返る。前出のカルラ監督はいう。

「私自身も映画を作りながら思い出しました。子どもは大人が思うほど単純な存在ではなく、すべてを冷静に見ていると」

(ライター・中村千晶)

AERA 2018年7月30日号