子どもの視線は、ときに社会の真実をあぶり出す。カンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞した是枝裕和監督「万引き家族」に続き、新世代の女性監督による2作品が伝えるものを、ぜひ感じてほしい。
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「祝福~オラとニコデムの家~」は、ポーランドで撮られたドキュメンタリーだ。ワルシャワ郊外に暮らす14歳のオラは、自閉症の弟ニコデムと飲酒に問題を抱える父と暮らしている。
母は家を出て別の男性と暮らし、生まれたばかりの赤ん坊の世話に忙しい。オラは学校に行きながら、弟と父の世話をし、家事をこなす。不在の母親にすがりたい思いをこらえ、ときにその重荷に耐えかねたように感情を爆発させる。カメラはまるでそこにいないかのように、オラの日常を映し出す。
アンナ・ザメツカ監督はオラのような少女を「アダルトチャイルド」と呼ぶ。大人のような責任を担わされてしまった子ども。実は監督自身も、同じ経験を持っている。
「私も幼少期に、両親の代わりに1歳の弟の面倒をみていました。両親が忙しすぎたためです。オラとは家庭環境が違いますし、彼女ほど深刻な状況ではありませんでしたが、その荷が子どもにとってどれほど大変なことかよく知っている。オラの境遇に興味を持ったのです」
自閉症のニコデムは適切な診断も治療も受けていない。支援の手はなかなか届かない。オラの状況は、決して特殊なものではないと監督はいう。
「ポーランドではこのような問題を抱える家庭は多いです。片親だけで暮らしている子も多く、自治体も彼らにあまり関心を持っていない。親も社会も子どもたちに無関心なのです」
社会主義体制から1989年に民主化されたポーランドでは、社会情勢が大きく変化した。貧富の差がさらに拡大し、オラの父親もそのなかで職を失った犠牲者でもある。
「ただ、貧困家庭に限らず、裕福な家庭でも同様のことが起こっています。どんな家庭でも社会のシステムからこぼれてしまう、オラのような子はいる」
テーマは深刻だが、監督のカメラはあくまでもおだやかでやさしい。是枝裕和監督の「誰も知らない」や、大島渚監督の「少年」にもインスピレーションを受けたという。