担当することになった上条地区に向けてセンターの車で出発する前、スタッフからはスポーツ飲料をなるべく多く持って行くよう指示された。塩分入りのキャンディーも何個も持たされた。熱中症対策だ。センターが大量に用意しているもので、タオルや帽子、軍手なども自由に使えるように置いてある。

 上条地区までは、わずかな距離なのに30分近くかかった。線路と並走する国道では相変わらず車がほとんど動かないほどの渋滞が続いており、それを横切るのに時間がかかったためだ。同地区では、寺の境内が前線拠点となっていて、すでに午前10時ごろから現場入りしていた別のチームが昼食をとっていた。さらにもう1チームが後から加わったため、最終的には3チーム15人が一緒に活動することになった。

 上条地区を受け持つリーダーが1人つき、3チームを作業場所へ導く。山から谷に下って総頭川のそばに行くと、破壊された橋の残骸や傾いた倉庫、大量の流木などが、辺り一帯に散乱していた。その近くにある木造2階建ての住宅が作業場所だった。川から数十メートルの距離にあり、ちょうど2階が通常の1階の高さになるような低地に立っていた。そのため、氾濫した川の濁流が一気に押し寄せ、1階部分を水没させたという。

 1階の側面の壁がそっくり消え、大きな穴が空いているのが、水圧の威力を物語っていた。濁流が運んだ土砂や流木などが、居間の床に堆積し、数十センチの層をつくっている。細長い丸太のような1本流木が土砂ともにガスコンロや流しのついた台所を破壊していた。あらゆる隙間から土砂が入り込み、押し入れの中にも土砂の層がある。こうした土砂をスコップですくい、土囊袋に入れて、屋外に運び出すのがボランティアの仕事だった。

 土砂にスコップを入れると、硬いものにぶつかった。濁流が運んだ大量の木の枝や幹が土砂の中で複雑に絡み合い、そこに家の中にあった延長コードやクシなどの日常品、割れた窓のガラス片などが埋もれている。スコップの先がひっかかり、土砂をすくい上げることが、なかなかできない。猛暑の熱気と湿気、粉じんや腐った水のような臭いを体中で受けながらの作業で、あっという間に体力が奪われていった。

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暑さで5分の作業でもスタミナが続かず