女性活躍をテーマにした投資信託の概要をまとめた「目論見書」。株式市場を通じて投資家が経営者に意識改革を迫っている
女性活躍をテーマにした投資信託の概要をまとめた「目論見書」。株式市場を通じて投資家が経営者に意識改革を迫っている
「女性」投信4本はそろって値上がり(AERA 2018年7月9日号より)
「女性」投信4本はそろって値上がり(AERA 2018年7月9日号より)

 特定の切り口に注目した「テーマ型投信」。その中で今、女性の活躍をテーマにしたファンドが“爆騰”しているという。今後も拡大が見込めると専門家は予想するが、その背景には何があるのか。

【図】「女性」投信4本はそろって値上がり

「結果がすべての資金運用の世界で、これ以上の商品はなかなか出てきません」。都内の証券会社の幹部がほめちぎるのは、大和証券投資信託委託が運用する「女性活躍応援ファンド(愛称:椿)」。直近1年間のトータルリターン(基準価額、分配金、手数料などを含めた利益)は51.3%、2015年3月末の運用開始から今年6月26日までに基準価額は1.78倍に大化けした。女性活躍という分かりやすさと高い運用成績の二つがそろい、証券営業の現場では、顧客に薦めやすい優良商品という位置付けだという。

「椿」の目論見書によると、運用方針は「女性の活躍により成長することが期待される企業に投資し、信託財産の成長を目指す」とある。投資信託など金融商品を運用する会社が投資する銘柄を選ぶ際、売上高の伸びや配当など決算書に載るデータが中心になりがちだ。しかし椿はこうした財務データに加えて、女性が働きやすい環境を整備している企業や、女性の利用の多い商品を提供する企業など、「女性応援」という条件で銘柄を絞り込んだ。たとえば組み入れたのは、通販サービス「バイマ」を展開するエニグモ、求人情報サイトを運営するディップ、化粧品のハーバー研究所など値動きの軽い小型株を中心に188銘柄(5月31日現在)。結果が冒頭で紹介した急騰である。

 特定の切り口に着眼して銘柄を選ぶ「テーマ型投信」は古くから存在する。環境、インターネット、バイオに加え、最近では人工知能(AI)や金融とITの融合を指すフィンテックが投信の「流行語」である。

 ただ、かつてのITバブル崩壊の例を引くまでもなく、テーマ型投信は高い運用成績の維持が難しい。というのは、投信の販売を始めるのはITなど特定のフレーズが個人投資家に浸透してから。投資経験の浅い個人客も購入するので、知名度や分かりやすさが欠かせないためだ。運用開始からほどなく株価が天井を打ち、投信が値下がりするのは宿命でさえあった。

 しかし、椿は快進撃を続け、女性活躍をテーマとした同様のファンドも、直近1年ではそろってプラスの運用成績を残している。

「女性をキーワードにした株式投資は、二つの観点から長期的に拡大するでしょう」

 こう予想するのは、機関投資家に投資情報サービスを提供する米MSCIマネージング・ディレクターの内誠一郎氏。

「海外では従業員という資産が業績成長の原動力になると考えられています。女性がいきいきと活躍する企業と、働きがいを感じられない企業の2社では、投資家がどちらを選ぶか明白でしょう。女性の活躍する企業が株式市場で高く評価されれば、プレッシャーを感じた他の企業も後れを取るまいと女性の活用に乗り出す好循環が生まれます。これは、株式市場だけでなく経済の活性化にもつながる可能性を秘めています」

(経済ジャーナリスト・大場宏明)

AERA 7月9日号より抜粋