「申し訳ありません。お客様の口座は、旧姓、新姓ともに見つかりませんでした」

 そんなスカが続いたあと、事態が大きく動いたのは、3行目に訪ねた「みずほ銀行」でのことだ。

「新姓で、青山支店に口座がありました。残高は4千……」

 え、まじか。でもそれだけ?

「あ、間違えました。こちらは通帳記載の残高で……」

 ですよねー。

「その後カードで引き出されたようで、正しい残高は787円でした」

 もっと少なっ! どうやら私は1980年代、第一勧業銀行の青山支店で口座を開設。最後にこの口座を使ったのは、バブル真っ盛りの90年2月だが、そこから10年取引がなかったため、休眠口座入りしたという。

 その後、02年に第一勧業銀行は富士銀行などと合併してみずほ銀行に。私の休眠口座もみずほ銀行の休眠口座となり、現在に至るそうだ。

 記憶にはまるでないが、バブル期の象徴的なエリア、青山の支店を選んで、威勢よく口座を開いたまではいいが、最後は、ちまちまと数千円を引き出して口座じまいにいそしむ。そんな20代の自分にも出会って、何だかジーン。銀行口座には、ちょっとした自分史も刻まれていたりする。

 そんなことより、休眠預金の口座を放っておくと、将来悪用されないとも限らないそうで。その後、残りの都市銀行1行と、「ロゴマークになじみがあるかも」とかすかな心当たりがあった地銀1行を回った。が、「口座番号がわからない口座は調べられない」と断られた地銀を含めて、続くビンゴは残念ながらゼロだった。

 戸籍謄本代450円と、シェアリング自転車代550円で赤字だが、見つかった口座は解約して、787円を手にすることを選択。それでも昨年ベースなら、今年発生する休眠口座は699億円以上残っている計算に。まだ捜していない人は、ぜひ。(ライター・福光恵)

AERA 7月9日号