矢部:子どもの頃から絵は身近で、父のアトリエには絵の具や紙がいっぱいありました。父と一緒にスケッチに行ったりもしました。

手塚:今回、大家さんとのエピソードを落とし込もうという時に、漫画という表現が一番自然だったんでしょうか。

矢部:大家さんとの出来事は漫談でしゃべるのも無理ですし。空気というのか……そういうものは、絵で伝わるというのはありますよね。

手塚:読者はみんな、大家さんと矢部さんの間の空気を感じることができると思います。何というものでもないけれど、日常いろいろな人と会ったりする時にある空気や温度。そういうものが表れていますね。

矢部:この時こう思ったということを描きました。車が浮いた、というのは、その時にそういう感じがしたんです。

手塚:大家さんと一緒にいる時間が本当に温かいから、車がふわっと浮くくらいの気持ちが矢部さんにあったのかなと思いました。

矢部:自分の実力では、車は後ろからしか描けなかったんです。『新寶島』の車のシーンの印象が強烈に残っていたので、それに影響を受けてあのような表現になったと思います。近づいてきて、ビューン、みたいな映画的なコマ割りを覚えているんですよね。だから車を描くとなったら、自然にああいう表現になりました。

手塚:今回の受賞に関して、お父様は何と言っておられますか。

矢部:この作品は、脱力感がいいねと言ってくれました(笑)。

(構成/編集部・小柳暁子)

AERA 2018年7月2日号