圓朝といえば明治の言文一致運動に影響を与えた存在だが、悪人が登場する噺も数多く作った人物だ。

 異色なのは、ヴァニラ画廊の「HN【悪・魔的】コレクション~evil devil~」。コレクターHN氏が情熱的に収集した作品を厳選して展示したものだ。

 シリアルキラー、映像、マンガ、深層心理の四つの視点から、それぞれの心の中に潜む「悪・魔」の形を見せる。

 人はなぜ、悪魔的な作品に心惹かれるのか。悪の本質は何なのか。見る側が問われるような展示になっている。

 國學院大學博物館は、考古学と神道を主軸に日本文化を伝える。現在は「狂言-山本東次郎家の面(おもて)-」とともに「惡─まつろわぬ者たち─」展を開催。

「悪の評価は千差万別。そこで、中国で生まれた『惡』という漢字を、日本列島の人々がどのように受け入れてきたのかに注目しました。具体的には考古資料や絵画も展示しながら、時代によって移り変わる字の形にも注目しています」(國學院大學准教授・深澤太郎さん)

 古代中国における墓の形を表現したとされる「亞」と「心」を組み合わせたとされる「惡」の文字。日本神話では、この字を「不服従」の意味を持つ「まつろわぬ者」というニュアンスで受け取ってきた。

「現代ほど言葉が蔑(ないがし)ろにされている時代はありません。公文書改竄などは、日本の国家形成史を否定する重大な事件です。現代の悪に対峙する我々は、まつろわぬ『惡』と呼ばれる存在になる必要があるでしょう」(同)

 悪が満ちている時代だからこそ、悪から目を背けず悪を知ること──紹介した1カ所だけでも、覗いてみてほしい。(ライター・矢内裕子)

AERA 7月2日号