同館の主席学芸員・日野原健司さんは「中規模の美術館が連携するという、新しい試みのモデルができた」と語る。

「共通するテーマはあるが、運営は個々でできるので、参加しやすい形になりました」

 フォトジェニックな書棚でも知られる、東洋文庫ミュージアムでは「悪人か、ヒーローか」というテーマで、始皇帝、平清盛、織田信長らについて、時代ごとに揺れ動く人物像を検証。
学芸課長の岡崎礼奈さんは言う。

「歴史資料や創作物を見ていくと、当時の社会規範や支配体制の枠組みのなかで悪とされた人々が、ヒーローやヒロインのように魅力的に描かれている例がよくあります。一方、歴史上の偉業を成し遂げた人物が、後世への教訓のために、悪い例として語り継がれていることも多い。歴史における善悪の判断が、さまざまな事情で変化するのはめずらしくありません」

 たとえば歌舞伎「国性爺合戦」でもおなじみの鄭成功は東アジアでは英雄だが、西洋の資料をみると海賊と認識されていたことが分かる。歴史上の人物の虚像と実像に迫るためには、語る視点の変化を検証する作業が不可欠だ。

 江戸時代の娯楽の王者、歌舞伎が悪人像に与えた影響も大きい。国立劇場伝統芸能情報館では「悪を演(や)る-歌舞伎の創造力-」として、歌舞伎に欠かせない敵役がどのように演じられてきたのか、実際に使われる道具や装置も展示しながら、舞台に悪の華が咲く場面を披露する。

 歌舞伎には仁木弾正、石川五右衛門といった有名な悪役から、岩藤、土手のお六といった女性まで、残忍非道な悪人が活躍する話が多い。また「色悪」と呼ばれる、見た目は二枚目ながら女性を裏切り、殺人も厭わない冷徹な敵役もいる。たとえば鶴屋南北の「東海道四谷怪談」の民谷伊右衛門や歌舞伎舞踊「色彩間苅豆」の与右衛門など、歌舞伎には欠かせない存在だ。

 一方の国立演芸場演芸資料展示室「悪を演る-落語と講談-」では、明治期の講談や落語の三遊亭圓朝の作品を中心に、錦絵・速記本などの資料を通じて、悪がどのように扱われ、演じられてきたのかを紹介している。

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