これまで、内閣府によるひきこもり調査の対象は15歳から39歳だった。立ち直れずに20年が経過した「重症」のひきこもりの人々は政府の統計から弾き飛ばされた。今、40歳以上のひきこもりが何人いるのかはっきりしない。池上さんは様々なデータを元に、おおよそ100万人と推測する(本誌1月22日号に「大人の学習障害」を書いた時、私は別の人物から40代以上を含むすべての世代のひきこもりが300万~500万人と聞いて、そのように書いたが、諸説あるようだ)。内閣府は今年度から初めて、40歳から59歳までのひきこもり人口の調査を実施することを決めた。

 もちろん、ひきこもる人々は20年前に突然現れたわけではなく、昔から存在した。しかし、かつては「家庭」や「地域」でフォローされてきた。そのコミュニティーが壊れ、国が介入しなければならなくなったのだと池上さんは言う。

 厚生労働省に、ひきこもり支援の変遷を尋ねた。2008年、厚労省は最初の「ひきこもり」対策に乗り出している。地域で個別に対応していたひきこもり相談の窓口が、厚労省の社会・援護局に移ったのだ。そして15年、「生活困窮者自立支援法」が施行され、40代以上のひきこもりにはこの枠組みで本格的に対応することになった。

●20年を要した国の支援声なき声が熱を帯びた

 生活困窮者自立支援法は本来、生活保護世帯の急速な増加による財政の悪化を受け、生活保護に至る前に自立支援を促す目的でつくられた。そして、この法律には「ひきこもり支援・就労準備支援の充実」も掲げられている。

 当事者会、そして国の支援。20年の月日を要したが、大人のひきこもりの人たちの声なき声が、一塊になって熱を帯びた。

 もっとも、私の知り合いの現役のひきこもり当事者たちのように、救われようとは思っていない人も多いだろう。だが、たとえ今すぐ外へ出られなくてもいい。彼らの心の奥底に、外界の支援のまばゆい光が、うっすらと届いているのならば。そのまばゆい光の中に、いつか彼らが太陽の輝く外へ出られる希望が宿っているのならば。(作家・萱野葵)

AERA 7月2日号