別の男性は40歳を過ぎてからひきこもりになった、と言った。彼もまたひきこもりを脱し、現在はソーシャルワーカー(社会福祉士)としてひきこもり支援に携わっている。その仕事柄、社会のマイノリティーすべてが対象になり、彼は「話が少しずれるが」と断って、ホームレスの問題に言及した。

 青テントを張って河川敷に住むホームレスは、自分の住む家を建てることができ、自立して生活しているだけ恵まれている。しかし、住む家も食料も自力で調達できないホームレスは、空き缶拾いをするしかない。だが、空き缶拾いにも縄張りがあり、その縄張りを侵すと後ろから刺されて命を落とすような危険スレスレの毎日を送っている。青テントの住人がホームレスの代表のように見られているが、実際は違う……。

 この話は、私に強い衝撃を与えた。

 だが、だれよりも印象に残った女性がいた。「クローズアップ現代」の司会を長らく担当していた国谷裕子キャスターにそっくりの、40歳くらいの女性だ。その華やかさにマスコミ業界、それもテレビ局の人だろうとあたりをつけた。

 ところが彼女の口から出る言葉に驚かされた。中学入学以降、急速に怠惰になり、学校が面倒になってひきこもり、高校へ行っていないのに、親が隠していたから親戚から入学祝いが届いた、と言ったのだ。皆笑った。

「ひどかった時は、私は精神科に入院していました……」

 彼女は明るく言った。

「それで、私の周りは生活保護受給者が多くて、その人たちは皆思っていることだと思うんですが、無料のお風呂っていうのが、以前住んでいた県にはありました。それが今住んでいるところにはないんです。無料のお風呂を設けてほしいです。それと、無料の食堂も作ってほしいです」

●ベーシックインカムっていつ導入されるんでしょう

 皆なるほどと聞いているが、私は彼女の言葉と見た目のギャップに困惑したままだった。

「ベーシックインカムって、いつ導入されるんでしょうねえ……」

 彼女は独り言のように呟いた。

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