老人ホームに慰問に行った時のこと。当時全くの無名だった私を声を上げて歓待してくれたのはおばあさん達だ。よくわからないであろうネタに笑っていたのもおばあさん達である。最後はペタペタと体も触ってもらい、気づけば手にキャラメルも握らされていた。一方、おじいさん達は遠くから注意深く様子を見ているか、「なんだこやつは?」と今にも怒り出しそうな雰囲気だったのであり、更に言えば、それをグッと堪えていた。社会性か。

 同じ場所に数度慰問に行ったのだけれど、季節を跨ぐと顔ぶれが変わってしまうのも老人ホームという所である。あの時警戒心バリバリで見ていたおじいさんの姿は無く、逆に、ニコニコ、ペタペタ、ピャーピャーと声を上げていたおばあさん達に会えたりすると、「なるほど……」と妙に腑に落ちてしまうのだ。

 私は、女性に「うるせえな」と思う前に、必ずこのことを思い出すようにしている。そしてキャラメルをあげるように声をあげるのだ。おぼつかないけれど。

AERA 2018年6月25日号

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マキタスポーツ

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マキタスポーツ/1970年、山梨県生まれ。俳優、著述家、ミュージシャンなど多彩な顔を持つ。子供4人。スポーツ用品店だった実家の屋号を芸名に。著書に『すべてのJ-POPはパクリである。』ほか。映画「苦役列車」でブルーリボン賞新人賞受賞。近刊に『越境芸人』(東京ニュース通信社)。『決定版 一億総ツッコミ時代』(講談社文庫)発売中。

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