自分の身を守る手段のない幼児ほど、虐待死の危険にさらされる。虐待死した可能性のある子どもの人数は、厚労省の集計の数倍にのぼるのでは、という日本小児科学会の指摘もある (c)朝日新聞社
自分の身を守る手段のない幼児ほど、虐待死の危険にさらされる。虐待死した可能性のある子どもの人数は、厚労省の集計の数倍にのぼるのでは、という日本小児科学会の指摘もある (c)朝日新聞社
児童虐待をめぐる主な通告・相談窓口(AERA 2018年6月25日号より)
児童虐待をめぐる主な通告・相談窓口(AERA 2018年6月25日号より)

 痛ましい子どもの虐待死事件。児相の人手不足、支援と介入のバランス──。山積する問題を前に、何ができるのか。虐待死防止に取り組む医師たちに話を聞いた。

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 衰弱した体、あまりにむごい内容の自筆のノート。東京都目黒区で船戸結愛ちゃん(5)が虐待死した事件を受け、専門家たちは問題提起を進めている。

 チャイルドファーストジャパン理事長で医師の山田不二子さんは言う。

「現状の課題が集約したケースです。改善し、次につなげるべきことは多くあります」

 一時保護が2度行われ、2度書類送検されているにもかかわらず、不起訴になったこと。児童相談所(児相)から、親権者の意に反しても子どもを施設入所・里親委託できる児童福祉法28条の申立てが行われなかったこと。同法27条の児童福祉法指導が年初に解除されていたこと。転居後、ケース移管を受けた品川児相が子どもの安否を確認せずに帰ったこと。

 児相が対応した児童虐待件数は、調査開始の1990年度から増加し続け、2016年度は12万2578件と過去最多を更新した。内容の半数以上を心理的虐待が占め、身体的虐待が続く。現場は多くの案件を抱え、支援と介入の間で揺れ動いているという。

「親と対立関係になることを恐れ、子どもの命を守るという最優先課題を見失ってしまったのでは」(山田さん)

 日本子ども虐待防止学会理事長で小児科医の奥山眞紀子さんは、現場の質の改善を訴える。

「結愛ちゃんは顔やおなかに傷があり、本人から『お父さんに蹴られた』との言葉も出ていた。命に関わりかねない暴力をふるわれた、と判断すべきでした」

 顔に傷を負わせていれば、暴力の歯止めが利かなくなっている可能性がある。小児の腹を蹴れば、内臓破裂の危険もある。

 数年前、奥山さんが関わった生後4カ月の乳児には、眼底出血と頭蓋内出血があった。主治医は「相当の外力が加わらなければ、この状態にはならないが、思い当たることはあるか」と聞いたが、親は「思い当たらない」。

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