北朝鮮には、旧満州から逃げてきた日本人の遺骨がたくさんあります。拉致問題と同時にこの遺骨の返還、収集を手掛かりにする、もしくは日本人妻の一時帰国でもいいでしょう。そこから信頼関係を構築し、拉致問題という本丸に臨むのです。

 もう一つは、北朝鮮がある程度安心できる状態、つまり米国との国交が事実上回復するタイミングです。国交回復には、人権擁護派からのクレームがつきます。人権に対して配慮しなければ、米国の議会は動かせません。その時に拉致問題が取り上げられる可能性があります。

 今焦って国内の支持率を上げるために日朝交渉に入ると、後に禍根を残しかねません。米朝の国交回復の時に、人権問題は必ず出てきます。そこが拉致問題の節目になると思っています。拉致被害者家族の一日千秋の思いをくみ取るためにも、急がば回れではないでしょうか。

AERA 2018年6月25日号

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姜尚中

姜尚中

姜尚中(カン・サンジュン)/1950年熊本市生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科博士課程修了後、東京大学大学院情報学環・学際情報学府教授などを経て、現在東京大学名誉教授・熊本県立劇場館長兼理事長。専攻は政治学、政治思想史。テレビ・新聞・雑誌などで幅広く活躍

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