小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『歳を取るのも悪くない』(養老孟司氏との共著、中公新書ラクレ)
小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『歳を取るのも悪くない』(養老孟司氏との共著、中公新書ラクレ)
背伸びせずいられるオランダ(※写真はイメージ)
背伸びせずいられるオランダ(※写真はイメージ)

 タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。

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 ニュースオンブズマン会議の仕事でオランダに来ています。東京から直行便で11時間あまり。アムステルダム中央駅の広場には教会の鐘の音が鳴り渡っていました。振り向けば東京駅のモデルになったという壮麗な赤煉瓦の駅舎。街を巡る運河にはボートが浮かび、童話に出てくるような可愛らしい家が隙間なく並んでいます。街ゆく人の人種は様々です。

 それにしてもすごい賑わい! 狭い道路は車とトラム(路面電車)で混雑し、地元の人は大挙して自転車専用道路を爆走し(車より危険かも)、大通りは観光客でいっぱい。幸いどこでも英語が通じるので、もし道に迷ってもなんとかなります。

 トラムと自転車を避けながらホテルにたどり着くと、エントランスの前で、熟年の男性カップルが熱いキスを交わしていました。

 オランダは2001年に世界で初めて同性結婚法が施行された国。現在、毎年の結婚数7万5千組のうち3千組が同性婚だとか。25組に1組ということになりますね。ギャラップの国際世論調査では、同性愛者にとって暮らしやすい国のトップにランキングされています。

 空き時間に出かけたゴッホ美術館では「ゴッホと日本」展を開催中でした。ゴッホが素晴らしいのはもちろん、改めて歌川広重や葛飾北斎の洗練された感覚に驚嘆。いつもと違う場所にいると心理的な解像度が上がるのか、同じ浮世絵でも日本で見るよりも一層鮮やかに感じられました。

 ニュースオンブズマン会議は年に1度開催されるオンブズパーソンたちの意見交換会です。欧州からの参加者が多いせいか、集合写真を撮るときに生まれて初めて「あなたは小柄だから前列にどうぞ」と言われました。172センチの私は日本では大柄。家族と暮らすオーストラリアでは平均サイズ。今回初めて「小柄な自分」を意識したら、不思議なことに何かを許されたような気がしました。日本では中身も背伸びしているのかも。

 のっぽ人生に疲れたら、またオランダに来ようっと。

AERA 6月18日号

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小島慶子

小島慶子

小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。共著『足をどかしてくれませんか。』が発売中

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